浴室は、濡れた床での移動や立ち座り、浴槽のまたぎ、お湯の中での立ち上がりと、転びやすい場面が続く場所です。さらに冬は、脱衣所との温度差による体調の急変にも気をつける必要があります。
この記事では、手すりをどこから付けるか、浴槽のまたぎ方の選び方、シャワーチェアや浴槽台などの入浴用品の選び方、寒さによる事故の防ぎ方をまとめました。
- 手すりを1本だけ付けるなら、濡れて滑りやすい洗い場の横手すりから。歩行が比較的安定している方は、いちばん危ない浴槽の出入りから
- 浴槽を立ってまたぐか座ってまたぐかは、転びやすさと体の動き方で決める。手すりを持った立った姿勢が安定していれば、立ってまたぐ方法も
- 股関節の手術(人工骨頭・人工股関節)を受けた方は、脱臼しやすい姿勢に注意。手術を受けた病院の指導を優先する
- 入浴用品は、介護保険ではレンタルではなく購入(年間10万円まで、自己負担1〜3割)
- 冬は脱衣所と浴室を暖め、お湯は41度以下・10分までが目安
1. 浴室で転びやすい場面
- 入口の段差:脱衣所と洗い場の間に段差がある浴室も多くあります。
- 洗い場:濡れた床での移動や、いすからの立ち座り。石けんで、さらに滑りやすくなります。
- 浴槽のまたぎ:片足で立つ時間があり、浴室の中でいちばん危ない場面の一つです。
- 浴槽の中での立ち座り:お湯の浮力で体が浮きやすく、足が滑ることもあります。
2. 手すりはどこから付けるか
浴室に手すりを何本も付けられれば安心ですが、壁の広さや費用の都合で、まず1本から、ということも多いと思います。その場合の考え方です。
- 基本は、洗い場の横手すり:入口は床が比較的安定していますが、洗い場は濡れていて滑りやすい場所です。また、浴槽につからずシャワーだけで済ませる方もいます。そのため、多くの方にとって、まず役立つのは洗い場の手すりです。
- 歩行が比較的安定している方は、浴槽の出入りから:ふだんの歩行が安定している方なら、浴室の中でいちばん危ない浴槽の出入りを支える手すりを優先する考え方もあります。
手すりの形の使い分け
- 縦手すり:立ち上がりや、大きな段差の上り下りに。浴槽の出入りに使う縦手すりは、浴槽の縁より少し手前に、肩の高さを中心に上下30cmほど、長さ60cm以上あると握り替えやすくなります。
- 横手すり:移動のときや、姿勢を安定させたいときに。
- L字型の手すり:浴槽の脇によく使われる形で、浴槽の出入りと、浴槽の中での立ち座りの両方を支えます。
手すりの表面は、濡れた手でも滑りにくい、凹凸(波形)のあるものがおすすめです。付ける位置は、ご本人に実際に手を添えてもらって確かめてから決めると失敗しにくくなります。高さの測り方は「手すりの高さの決め方」もご覧ください。
3. 浴槽のまたぎ方:立つか、座るか
公的な資料には、「高齢の方はなるべく座って出入りする方が安心で、とくに一人暮らしの場合は、立ってのまたぎは避けたい」とするものもあります。年齢とともに、脚の力よりも立ったときのバランスが大きく低下するためです。
浴槽から立ち上がるとき
足をお尻の方へ引き寄せ、頭を前に出すようにして体を前に傾けてから、縦手すりを使って立ち上がります。お湯から出るときは、急に立ち上がらず、ゆっくり動くと、立ちくらみを防げます。
4. 入浴用品の種類と選び方
シャワーチェア(入浴用いす)
洗い場で体を洗うときに座るいすです。多くのものは、脚の長さを変えて座面の高さを調節できます。
- 洗い場は案外狭いことがあります。いすを置いたら、通り道がなくなってしまった、ということもあるので、置き場所と大きさを先に確かめておくと安心です。
- 背もたれは必要に応じて。洗い場が狭く、通り道を確保できない場合は、背もたれの優先度は低くなります。
- 肘掛けは、座った姿勢が安定しない方向けです。ただ、そのような方は入浴そのものの危険が高いため、ご家族の見守りや介助のもとで入浴していることが多いと思います。
- 高さ:洗うのが中心なら、足の裏が床に、太ももが座面にしっかり着く高さ。立ち上がりを楽にしたいならやや高め。浴槽の出入りに使うなら、浴槽の縁の高さに合わせます。
- 座面や肘掛けに手をついて立ち上がる場合は、脚が座面より外に広がった、倒れにくい形のものを選びます。
浴槽台(浴槽内いす)
浴槽の中に置いて座る台です。浴槽が深くて出にくい方や、膝や股関節が曲がりにくい方に向いています。
- 高すぎると半身浴になる:肩までお湯につかれず、体が冷えてしまいます。座ったときの肩の位置を考えて高さを選びます。
- 脚が吸盤などで、浴槽の底にしっかり固定できるものがおすすめです。
滑り止めマット
- 浴槽の中:立ち上がるときに足が滑って踏ん張れない方は、浴槽の中に滑り止めマットを敷くと安定します。吸盤で浴槽に固定できるものを選びます。
- 洗い場:なるべく全面に敷き詰めます。小さく分かれていて組み合わせるタイプは、端まできちんと敷き詰めないと、かえって滑ることがあります。
滑り止めマットは、介護保険の購入の対象ではありません。市販のものを使います。
バスボード・浴槽の縁に付けるいす(入浴台)
浴槽の縁に渡したり取り付けたりして、座ったまま浴槽に出入りするための台です。バスボードは、厚いと浴槽の底に足が着きにくくなるため、なるべく薄くて軽いものがおすすめです。浴槽の縁に取り付けるいすは、それだけでは体が不安定になりやすいため、手すりとあわせて使います。
浴槽用手すり
浴槽の縁にはさんで固定する手すりです。壁に工事をしなくても付けられるので、賃貸住宅でも使えます(介護保険では購入の対象です)。主に、立ってまたぐときや、浴槽から立ち上がるときの支えに使います。
- 使う前に、しっかり固定されているか(締め付けのつまみがゆるんでいないか)を毎回確かめます。
- 浴槽の縁の幅や厚み、材質によっては取り付けられないことがあります。購入の前に、福祉用具の事業者に浴槽を見てもらうと安心です。
- より安定させたい場合は、洗い場の床まで脚が伸びるタイプもあります。
すのこ(浴室内すのこ)
洗い場に敷いて、脱衣所との段差をなくすためのものです。洗い場の一面に敷き、動かないようにします。木製のものはしっかり乾かす手間がかかるため、樹脂製の方が手入れはしやすいです。
5. 片麻痺の方の場合
- 浴槽には、麻痺のない足から入るのが基本です。麻痺のある足から先に入れようとすると、足が上がりにくい場合があります。また、麻痺のない足なら、お湯の温度を確かめられ、浴槽の中で踏ん張りも効きます。
- 出るときも、麻痺のない足から出ます。入るときとは体の向きが反対になるため、浴槽の両側に手すりが必要になる場合があります。
6. 股関節の手術(人工骨頭・人工股関節)を受けた方の場合
太ももの付け根の骨折などで人工骨頭置換術を受けた方や、変形性股関節症などで人工股関節全置換術を受けた方は、股関節が特定の姿勢になると脱臼(人工の関節が外れること)が起こるおそれがあります。入浴は、低いいすに座る、浴槽をまたぐ、足先を洗うなど、股関節を深く曲げたりひねったりする動作が多いため、とくに注意が必要です。
気をつける姿勢は、手術の方法によって違う
- 後ろ側から手術した場合(後方アプローチ):股関節を深く曲げる、脚を内側に入れる(膝を閉じる・脚を組む)、膝を内側にひねる姿勢
- 前側から手術した場合(前方アプローチ):脚を後ろに引き、つま先を外側に向けてひねる姿勢
どの姿勢に気をつけるかは、手術の方法やご本人の状態によって異なります。手術を受けた病院で指導された姿勢と動き方を守ることが、いちばん大切です。脱臼が起こることは多くはありませんが、手術後3か月ほどまでは、とくに起こりやすい時期の目安とされています。ただし、それ以降に起こることもあるため、時期にかかわらず、指導された注意点を続けておくと安心です。
入浴のときの工夫(病院の資料でよく示されている例)
- 洗い場のいすは高めに:低いいすに座ると股関節が深く曲がるため、座面の高いシャワーチェアを使います。
- 足先は、長い柄のブラシで洗う:無理にかがみこまないようにします。膝を内側に入れて、足の外側から洗う姿勢は避けます。
- 浴槽の出入り:手すりにつかまり、手術していない脚から入ります。浴槽の縁が高い場合は、縁やいすに一度腰かけてから入る方法もあります。
- 浴槽の中:膝を深く曲げてしゃがみこまず、脚を伸ばし気味にしてつかります。浴槽が深い場合は、浴槽台を使うと深くしゃがまずにすみます。
退院前に、自宅の浴槽の高さや形を病院のリハビリ職員に伝えておくと、家のお風呂に合わせた入り方を入院中に練習できます。
7. 寒さによる事故を防ぐ
高齢の方の入浴中の事故は、11月から4月の冬の時期を中心に多く起きています。暖かい部屋から寒い脱衣所や浴室へ移り、熱いお湯につかると、血圧が大きく変動して体調を崩しやすくなるためです。
- 入浴前に、脱衣所や浴室を暖める
- お湯の温度は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にする
- 浴槽から急に立ち上がらない
- 食後すぐの入浴や、飲酒後、薬を飲んだあとの入浴は避ける
- 入浴する前に、同居しているご家族に一声かけておく
8. 介護保険で入浴用品を買うには
入浴用品は、肌に直接触れて使うため、介護保険ではレンタルではなく「購入」の対象です(特定福祉用具販売)。
- 対象の品目:入浴用いす(シャワーチェア)、浴槽用手すり、浴槽内いす(浴槽台)、入浴台(バスボードなど)、浴室内すのこ、浴槽内すのこ、入浴用介助ベルト
- 金額:毎年4月から翌年3月までの1年間で、10万円までの購入が対象です。自己負担は1〜3割です。
- 買う店:都道府県などから指定を受けた事業者で買う必要があります。ホームセンターや通販で買ったものは対象になりません。
- 払い方:いったん全額を支払い、あとから申請して払い戻しを受けるのが基本です。市区町村によっては、最初から自己負担分だけを支払えばよい方法も選べます。
壁に付ける手すりや、入口の段差をなくす工事は、住宅改修(工事費20万円まで)の対象です。どちらも、まずは担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです。
関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 浴室で困っている場面から、手すりの工事や入浴用品の自己負担の目安がわかります。出典・参考にした資料
- 福ナビ(公益財団法人 東京都福祉保健財団)「高齢者の入浴」:浴槽への出入りの方法、片麻痺の方は麻痺のない足から入ること、浴槽の縁の高さ、シャワーチェア・浴槽内台・バスボード・滑り止めマット・すのこの選び方 浴槽への出はいり/入浴を支える福祉用具
- 公益財団法人テクノエイド協会「手すりを上手に使う」(福祉用具シリーズ Vol.14):浴槽の出入りに使う縦手すりの位置 PDF
- 人工股関節・人工骨頭の手術後の注意点:整形外科医による解説(手術の方法による脱臼しやすい姿勢の違い) ページ/城内病院 リハビリテーション部 ページ/嶋崎病院 ページ/康心会汐見台病院 ページ(いずれも入浴時の注意点)
- 消費者庁「冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください!」 ページ
- 厚生労働省「厚生労働大臣が定める特定福祉用具販売に係る特定福祉用具の種目」(平成11年厚生省告示第94号):入浴補助用具の品目 告示
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際の手すりの位置や入浴用品は、ご本人の体の状態や浴室の広さによって変わります。