トイレは、立つ・座る・向きを変える・ズボンを上げ下ろしする、と狭い場所で多くの動作が続くため、手すりがとても役に立つ場所です。一方で、位置や左右を間違えると、かえって動きにくくなったり、ふらつきの原因になったりすることもあります。
この記事では、手すりの位置と高さの目安、種類の選び方、麻痺がある場合の左右の決め方をまとめました。
- 立ち座りには縦手すりが力を入れやすい。便座に座って腕を前に伸ばした指先のあたりが位置の目安
- 1本で立ち座りと座っている間の姿勢の両方を支えられるL字型がおすすめ
- 片麻痺の方は、麻痺のない側の手で縦手すりを握れる配置が基本
- その側に壁がないときは、可動式の手すりや、正面の壁の横手すりで補う方法がある
- 歩行器を使っている方は、入口の縦手すりと、便器までの伝い歩き用の手すりも忘れずに
1. トイレの手すりが支える動作
トイレでは、主に次の場面で手すりを使います。どの場面で困っているかによって、合う手すりの形や位置が変わります。
- 移動・向きを変える:ドアから便器の前まで歩き、向きを変える(歩行器を入口に置いて、伝い歩きに移る場合も)
- 立ち座り:便座に座る、便座から立ち上がる
- 座っている間の姿勢:体が傾かないように支える、踏ん張る
- ズボンの上げ下ろし:片手で支えながら、立った姿勢を保つ
2. 位置と高さの目安
- 縦手すりの前後の位置:便座に座って、腕を前にまっすぐ伸ばしたときの指先のあたりが目安です。一般的には、便器の先端から20〜30cm前になることが多いです。立ち上がるときは、おじぎをするように体を前に傾けてから腰を浮かせるため、手すりが少し前にあると体を前に移しやすくなります。
- 縦手すりの高さ:肘を90度に曲げたときの手の高さから、肩の高さまでが握りやすい範囲です。座った姿勢でも立った姿勢でも握れるよう、縦に十分な長さのあるものを選びます。
- 横手すりの高さ:便座から22〜25cmほど上にあると、肘掛けのように使えます。
高さの測り方は、記事「手すりの高さの決め方」で、廊下や玄関とあわせて詳しくまとめています。
3. 手すりの種類と、向いている方
L字型の手すり(おすすめ)
縦と横の手すりがひとつにつながった形で、1本で立ち座りと、座っている間の姿勢の両方を支えられます。縦の部分は、立ち上がるときに体を引き寄せたり、座るときにゆっくり腰を下ろしたりするのに使います。横の部分は、肘掛けのように腕を乗せて姿勢を安定させたり、立ち上がりの始めに手をついて押したりするのに使います。
- 脚の力が弱くなった、膝や腰に痛みがあるなどで、立ち上がるときに手の力を借りたい方
- 座るときに、ゆっくり腰を下ろせず「ドスン」と座ってしまう方
- 座っている間に体が傾きやすい方や、排泄のときに踏ん張りにくい方
縦手すり
手首をまっすぐにしたまま握れるので、立ち座りのときに体を引き寄せる力を入れやすい形です。
- 座っている間の姿勢は安定していて、立ち座りだけを助けたい方
横手すり
手を滑らせながら伝い歩きをしたり、肘をかけたりするのに向いています。壁に沿って長めに付けると、トイレの中の移動、立ち座り、座っている間の姿勢に1本で使える場合もあります。
- ドアから便器までの移動や、向きを変えるときにも支えがほしい方
可動式の手すり(はね上げ式など)
使うときは下ろして肘掛けのように使い、使わないときは上げておける手すりです。便器の横に壁がない側にも付けられ、上げておけば、介助する人が近づく場所を確保できます。
- 付けたい側に壁がない方
- ご家族が横に立って介助する方
置くタイプ・便器に固定するタイプ
床に置いて使う手すりや、便器に固定する手すりなど、壁に工事をしなくても使えるものがあります。介護保険でレンタルできます。レンタル料の自己負担の目安は、住宅改修と福祉用具の費用のツールで確認できます。
- 賃貸住宅の方
- 退院直後など、まず試してから工事を考えたい方
- 便器の横の壁が遠い方
4. 左右の決め方(片麻痺の方の場合)
脳卒中などで体の片側に麻痺がある場合、麻痺のない側の手で縦手すりを握れる配置が基本です。たとえば右半身に麻痺がある方なら、便座に座ったときの左側に縦手すりがあると、左手で引き寄せて立ち上がれます。
縦手すりの位置を間違えると、動作を妨げたり、ふらつきの原因になったりすることがあるため、とくに慎重に決めたい部分です。
理想の側に手すりを付けられないとき
トイレの広さや便器の向きの都合で、麻痺のない側に壁がない場合もあります。そのときは、次のような方法で補います。
- 可動式の手すりを使う:壁のない側にも付けられる、はね上げ式などの手すりを、麻痺のない側に付けます。
- 正面の壁に手すりを付ける:便器の正面に壁があれば、正面に横手すりやL字型の手すりを付けます。前にある手すりは、立ち上がるときに体を前に移しやすく、立った姿勢も安定しやすくなります。
5. 歩行器を使っている方は、入口の手すりも
ふだん歩行器を使って生活している方の場合、トイレの中は狭く、歩行器ごと入れないことがほとんどです。そのため、トイレの外(入口の手前)に歩行器を置き、そこから便器までは手すりを伝って歩くことになります。
手すりを考えるときは、便器のまわりだけでなく、歩行器から手すりへの持ちかえと、便器までの伝い歩きを支える手すりを忘れないことが大切です。
- 入口の縦手すり:トイレの入口(ドアの横の壁など)に縦手すりがあると、歩行器から手を離す前に、しっかり握って体を支えられます。歩行器から伝い歩きへ、安定して移ることができます。ブレーキが付いている歩行器は、ブレーキをかけてから手を離すと安心です。
- 便器までの伝い歩き用の手すり:入口から便器まで、手すりが途切れずにつながっていると安心です。トイレの中の壁に横手すりを付け、便器の横のL字型手すりへつなげる形がよく使われます。
- 帰りも同じ手すりで:用を済ませたら、同じ手すりを伝って入口まで戻り、入口の縦手すりを握ったまま歩行器に持ちかえます。歩行器は、戻ったときにすぐ手が届く位置に置いておくと安心です。
6. ズボンの上げ下ろしのときの使い方
トイレの中で意外と難しいのが、立ったままズボンを上げ下ろしする動作です。片手を手すりから離すため、ふらつきやすくなります。
- 基本:麻痺のない側の手で手すりを持って立ちます。体を少し手すりにもたれかけるようにすると、立った姿勢が安定しやすくなります。
- 麻痺が軽い場合:麻痺のある側の手で手すりを持ち、麻痺のない側の手でズボンを上げ下ろしする方法もあります。
- 前の手すりを使う:足より前にある手すりを支えにすると、立った姿勢が安定しやすくなります。正面の壁の横手すりは、ズボンの上げ下ろしのときにも役立ちます。
どの方法が合うかは、麻痺の程度や立った姿勢のバランスによって大きく変わります。ふらつきがある場合は、無理に一人で行わず、リハビリの専門職と、安全な手順を一緒に決めておくと安心です。
7. 介護保険を使うには
- 壁や床に工事をして付ける手すり:介護保険の住宅改修が使えます。工事費20万円までが対象で、自己負担は1〜3割です。工事の前に、市区町村への申請が必要です。
- 工事をしない手すり(置くタイプ・便器に固定するタイプなど):介護保険の福祉用具として、月々の自己負担(1〜3割)でレンタルできます。
まずは担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです。
関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 トイレで困っている場面から、手すりの工事・レンタルの自己負担の目安がわかります。出典・参考にした資料
- 公益財団法人テクノエイド協会「手すりを上手に使う」(福祉用具シリーズ Vol.14):トイレで手すりを使う場面、縦手すり・肘掛けのような横手すりの位置、可動式・置くタイプの手すり、ズボンの上げ下ろしのときの前方の手すり、縦手すりの位置を誤ったときの影響 PDF
- 広島県「高齢者のための住宅改修ポイント【ポイント2】」:トイレの縦手すり・横手すりの位置 ページ
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際の手すりの種類や位置は、ご本人の体の状態やトイレの広さによって変わります。