退院が近づくと、病院のリハビリ職員などが自宅を見に来る「家屋調査」の相談を受けることがあります。「何を見られるのか」「家を片付けておくべきか」と戸惑うご家族も多いのですが、少し準備しておくだけで、当日の話がぐっと具体的に進みます。
この記事では、家屋調査の目的と、事前に用意しておくと役立つもの、当日に確認されることの流れをまとめました。
- 家屋調査は、退院後の暮らしに合わせて、家具の配置や福祉用具、住宅改修が必要かどうかなどを考えるために自宅を確認するもの
- 間取り図や写真の用意は基本的に不要。ご家族は、ご本人のふだんの暮らし方を伝えられるようにしておくと、話が具体的に進む
- 当日は、玄関から寝室・トイレ・浴室まで、毎日の動きの順番に確認することが多い
- 見栄えのための片付けは必要なく、ふだんの状態を見てもらう方が役に立つ
- 家の中を見る時間は、1〜2時間ほどみておくと余裕がある。特別な片付けは必要なく、ふだんの状態のほうが伝わる
リハビリ職・ケアマネジャーの方へ
当日に測っておきたい場所と間取り図の描き方は家屋調査の間取り図の書き方に、報告書に使える図はかんたん間取り図メーカーで作れます。この記事は、ご家族向けの説明として共有するときにお使いください。
1. 家屋調査とは
家屋調査は、退院後に自宅で安全に暮らせるよう、病院の職員が自宅を訪問して、段差や通り道、トイレや浴室などを確認するものです。病院によって「家屋評価」「退院前訪問」などとも呼ばれ、診療報酬では「退院前訪問指導」という名前で定められています。
- 来る人:理学療法士・作業療法士などのリハビリ職員が中心で、看護師や医療ソーシャルワーカーが加わることもあります。退院後に担当するケアマネジャーや、福祉用具・住宅改修の業者が同席すると、その場で具体的な相談ができます。
- ご本人:体の状態によっては、ご本人も一緒に自宅へ行き、実際に動いてもらいながら確認します。職員とご家族だけで行うこともあります。
- 時期:退院の見通しが立ってきたころに行うことが多いですが、入院してすぐの時期に一度見に来る病院もあります。
- 移動の費用:当日、ご家族やご本人が自宅へ移動するための費用は、基本的にご自身の負担になります。
※職員が電車やバスなどで訪問する場合に、その交通費を請求する病院もあります。気になる場合は、事前に病院に確認しておくと安心です。
2. 事前に準備しておくこと
家の間取り図や写真、寸法を、ご家族が用意する必要は基本的にありません。当日、職員が実際に家を見て判断します。
事前の準備で大切なのは、ご家族にしかわからないことを伝えられるようにしておくことです。次のようなことを、メモにしておくと伝えやすくなります。すべて答えられなくても大丈夫です。
ご本人の暮らし方
- 寝るのはベッドか、布団か
- 日中を過ごす場所(居間のいす、ソファ、こたつなど)
- 夜中にトイレへ行く回数
- お風呂は湯船につかるか、シャワーだけか
- 家事など、家の中で担っていた役割
- 通院や買い物など、外出の予定
- ご本人が「これだけは続けたい」と思っていること
ご家族のこと
- 同居しているご家族と、日中に家にいる人
- 手伝える時間帯(朝・夜・週末など)
- 介護するご家族自身の体の状態(腰痛があるなど)
- 住宅改修や福祉用具が必要になった場合に、かけられる予算の目安
- 持ち家か賃貸か(賃貸の場合、工事には大家さんなどの承諾が必要です)
写真の撮り方
写真があると、当日その場にいなかった人にも様子が伝わります。次の場所を、1か所につき1〜2枚ずつ撮っておくと役に立ちます。
- 家の前から玄関まで(外の段差や通路)
- 玄関の中(上がりかまち、靴を脱ぐ場所、つかまれる物)
- 廊下(曲がり角がある場合は、その手前から)
- トイレ(入口と、中の全体)
- 浴室(入口の段差、浴槽、洗い場)
- 寝室(部屋の全体と、ベッドの周り)
- 階段(上と下から1枚ずつ)
撮るときは、入口に立って部屋の全体が入るように撮ると、広さが伝わります。人が写り込まないようにし、ご本人やご家族以外に見せる範囲も決めておくと安心です。
間取り図・写真・寸法があると助かる場合
次のような場合は、家の情報が手元にあると、病院の職員が支援しやすくなります。
- 家屋調査の前に、あらかじめ相談しておきたい場合
- ご事情で、家屋調査(職員の自宅訪問)を希望しない場合
用意するなら、次のようなもので十分です。
- 間取り図:手書きで大丈夫です。寝室・トイレ・浴室・玄関の位置と、つながり方がわかれば役立ちます。パソコンで描く場合は、かんたん間取り図メーカーも使えます。
- 写真:家の前の通路、玄関、廊下、トイレ、浴室、寝室、階段。スマートフォンで撮ったもので十分です。
- 寸法:玄関の段差の高さ、トイレと浴室の入口の幅と段差、廊下の幅、浴槽の高さ(洗い場の床から縁まで)
間取り図の描き方や、測っておくと役に立つ場所は、記事「家屋調査の間取り図の書き方」でくわしくまとめています。
3. 当日の流れ
当日は、毎日の動きの順番に沿って確認していくことが多いです。時間は、家の広さや確認する内容によって変わります。以下は一例です。
- 家の前から玄関へ家の前の通路や段差、玄関の上がりかまち。車いすや杖を使う場合は、その通り道も確認します。
- 寝室ベッドを置く場所と高さ、起き上がりや立ち上がりのしやすさ、手すりや介助バーが必要か(記事「介護ベッドの置き場所と介助バーを付ける側」)。
- 寝室からトイレまでの通り道距離、段差、夜の明るさ。夜中のトイレは転びやすい場面の一つなので、とくに丁寧に見ます。
- トイレ入口の幅と段差、ドアの開き方、便器の高さ、手すりを付けられる壁があるか。
- 浴室・脱衣所入口の段差、浴槽のまたぎやすさ、洗い場のいすや手すりの位置。
- 居間・台所・階段日中を過ごす場所、家事の動き、2階を使う必要があるか。
ご本人が一緒の場合は、実際にその場所で動いてもらいながら確認します。そのうえで、必要に応じて、家具の置き方や動き方の工夫、使うとよい福祉用具、住宅改修(手すりの取り付けや段差の解消など)の提案があり、内容はあとで報告書にまとめられたり、退院前の話し合い(退院前カンファレンス)で共有されたりします。カンファレンスで聞いておきたいことは、記事「退院前カンファレンスで家族が聞いておくこと」でまとめています。
所要時間と、当日に用意しておくもの
家の中を見る時間は、1時間から2時間ほどみておくと余裕があります。家の広さや確認する内容によって変わり、往復の移動を含めると、半日ほどかかることもあります。
- ご家族が用意するもの:家の鍵、メモを取るもの。ふだん使っている杖や靴があれば、そのまま置いておきます。
- 片付け:特別な片付けは必要ありません。ふだんの状態のほうが、危ない場所が分かります。
- 聞きたいことのメモ:「お風呂に入れるか」「夜のトイレが心配」など、その場で聞くと具体的な助言をもらえます。
- メジャーや間取り図:病院の職員が持ってくることが多いので、ご家族が用意する必要はありません。
4. 家屋調査のあとにすること
- 住宅改修(工事が必要と判断された場合):手すりの取り付けや段差の解消など、工事が必要と判断された場合です。介護保険を使うときは、工事の前に市区町村への申請が必要です。見積もり、申請、工事と進むため、完成までに時間がかかることがあります。退院に間に合わない場合は、置くだけの手すりをレンタルでつなぐ方法もあります。
- 福祉用具のレンタル・購入:退院の日に使えるよう、ケアマネジャーや福祉用具の業者と、届ける日を調整しておくと安心です。
- 介護保険の申請がまだの場合:要介護認定は入院中でも申請できます。結果が出るまで1か月ほどかかるため、早めに動いておくと退院後の準備が進めやすくなります。相談先や申請の流れは、記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」でまとめています。
退院日から逆算した進め方
準備には、次のような時間がかかります。退院日が決まったら、2週間前までに方針を決めておくと、間に合わせやすくなります。
- 住宅改修:見積もり → 市区町村への事前申請 → 工事、という順です。工事の前に申請が必要で、申請より先に工事を始めると介護保険が使えなくなることがあります。
- 賃貸住宅の場合:住宅改修には、所有者(大家さん)の承諾書と賃貸契約書の写しが必要になります。承諾を得るのに日数がかかることがあるため、早めに相談しておくと安心です。
- 福祉用具:工事より早く用意できます。退院に工事が間に合わないときは、置くだけの手すりやスロープをレンタルでつないで、あとから工事を検討する方法もあります。
5. よくある質問
家屋調査がない病院もありますか?
あります。入院の期間が短い場合や、ご本人の状態から必要性が低いと判断された場合などは、行わないこともあります。自宅の環境が気になる場合は、家の写真や寸法を持って、病院のリハビリ職員に相談してみるのがおすすめです。写真だけでも、具体的な助言をもらえることがよくあります。
家族が立ち会う必要はありますか?
自宅に入って確認するため、ご家族の立ち会いが前提になります。ふだんの生活の様子を知っているご家族の話は、提案を考えるうえでとても大切な情報になるので、できれば、退院後に主に関わるご家族が参加すると話がスムーズです。
家屋調査には、どれくらい時間がかかりますか?
家の中を見る時間は、1時間から2時間ほどみておくと余裕があります。家の広さや、確認する場所の数によって変わります。病院からの移動を含めると、半日ほどかかることもあります。
賃貸住宅でも住宅改修はできますか?
できますが、所有者(大家さん)の承諾書と、賃貸契約書の写しの提出が必要になります。承諾を得るまでに日数がかかることがあるため、家屋調査で手すりの話が出たら、早めに相談を始めるのがおすすめです。
提案された住宅改修や福祉用具は、すべてそろえる必要がありますか?
すべてを一度にそろえる必要はありません。「退院の日までに必ず必要なもの」と「使いながら様子を見て決めるもの」に分けて、優先順位を相談してみるのがおすすめです。手すりの高さや位置の考え方は、記事「手すりの高さの決め方」でも詳しくまとめています。
出典・参考にした資料
- 診療報酬点数表 B007 退院前訪問指導料(令和8年度):対象となる患者、回数、訪問する職種、指導に要した交通費は患家の負担とすること 告示・通知の本文を掲載したページ
- 横浜市「介護保険の住宅改修費について」:住宅改修は工事の前に申請(事前申請)が必要なこと、賃貸住宅では所有者の承諾書と賃貸契約書の写しの提出が必要なこと ページ
この記事は一般的な流れをまとめたものです。家屋調査の進め方や時期は、病院によって異なります。