何もないところでつまずく、玄関で足がもたつく、外を歩きたがらなくなった。こうした変化が見えてきたとき、見落とされやすいのが履いている靴です。
年齢を重ねると、足が上がりにくくなり、歩幅も小さくなっていきます。その歩き方に合わない靴を履き続けていると、つまずきや、ふらつきのきっかけになることがあります。靴を替えれば転ばなくなるわけではありませんが、家の中の環境を整えるのと同じくらい、手をつけやすい工夫です。
この記事では、売り場で何を見ればよいか、サイズをどう合わせるか、室内履きはどうするか、買い替えの目安はどこかをまとめました。
- かかとを包む部分がしっかりしている靴は、足元が左右にぶれにくくなる
- つま先が少し反り上がっていると、すり足ぎみの方はつまずきにくくなる
- サイズは長さだけでなく、足の幅や周囲(ワイズ)も合わせる。左右で違うことがある
- 室内では、かかとのないスリッパより、かかとが覆われた室内履きや滑り止めの靴下という選択肢がある
- かかとの外側のすり減り、靴底の溝、かかとの傾きが、買い替えを考える目安
- 靴は介護保険の対象ではなく、自費。医師が治療のために必要と認めた装具は別の制度がある
1. 靴が歩きやすさに関わる理由

筋力が落ちてくると、歩くときに足が上がりにくくなり、床をこするような歩き方になっていきます。この状態では、わずかな引っかかりでもつまずきにつながります。靴が足に合っていないと、その引っかかりが増えます。
次のような靴は、歩きにくさにつながることがあります。
- 脱げやすい靴:脱げないように足の指で押さえながら歩くことになり、疲れやすく、足も上がりにくくなります。
- 重すぎる靴:足を持ち上げるのに力がいるため、すり足が強くなることがあります。
- 底が滑りやすい靴:踏ん張りがきかず、ふらついたときに立て直しにくくなります。
- 大きすぎる靴:履きやすい一方で、靴の中で足が前後に動き、歩く姿勢が安定しません。
歩きにくさは、外出の回数にも影響します。出かける機会が減ると、動く量そのものが減っていきます。外に出たがらなくなったときに何を考えるとよいかは、親が出かけなくなった・横になる時間が増えたらでまとめています。
靴は、転びにくくするための工夫の一つです。靴を替えれば転ばなくなるというものではないため、家の中の環境や、体の状態の変化とあわせて考えるのがおすすめです(家の中の転倒を防ぐ工夫)。
2. 売り場で見る6つのこと
靴売り場には多くの種類が並びますが、見るところは絞れます。それぞれ「なぜそこを見るのか」とあわせて挙げます。
1)かかとを包む部分がしっかりしているか
かかとの周りが硬めに作られていると、足を着いたときにかかとが左右にぶれにくくなります。ここが柔らかい靴は、履き心地は軽いのですが、足元が安定しにくくなります。手で後ろから押してみて、簡単につぶれないかを確かめます。
2)つま先が少し反り上がっているか
すり足ぎみの方は、つま先がわずかな段差や敷物の縁に引っかかります。つま先が少し上を向いている形だと、足を前に出したときに引っかかりにくくなります。
3)靴底の溝と硬さ
靴底に溝があり、滑りにくい素材であることが基本です。あわせて、厚みと硬さも見ます。底が厚すぎたり柔らかすぎたりすると、地面の状態が足に伝わりにくく、かえってぐらつくことがあります。適度な硬さがあるほうが、踏ん張りがききます。
4)甲を留められるか
マジックテープ(面ファスナー)やひもで甲を留められると、靴の中で足が前後に動きにくくなります。足を入れるだけの形の靴は脱ぎ履きが楽ですが、歩くときの安定という点では、留められるもののほうが有利です。
ただし、留められる靴でも、留めずに履いていては同じことです。ふだん留めないまま履いている方には、別の選び方があります(この章のあとの「理学療法士の視点から」)。
5)履き口が大きく開くか
留める部分が大きく開く靴は、足を入れやすく、かかとをつぶさずに履けます。履くのに手間がかかると、面倒になってサンダルで出てしまうことにもつながります。
6)重すぎないか
持ち上げてみて、ご本人が重いと感じないことが目安です。数字より、実際に持ってもらった感覚のほうが確かです。
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- 1かかとを包む部分がしっかりしているか
- 2つま先が少し反り上がっているか
- 3靴底に溝があり、厚すぎず柔らかすぎないか
- 4甲をマジックテープやひもで留められるか
- 5履き口が大きく開き、足を入れやすいか
靴をしっかり履けていない方に、よく出会います。マジックテープやひもを留めないまま、足を入れただけで歩いている、という形です。かかとを踏んだまま履いていることもあります。
そうすると、靴の中で足が前後に動き、かかとが浮きます。脱げないように足の指で押さえながら歩くことになるので、せっかく足に合った靴を買っても歩きにくいままです。
留めないのには理由があることが多いところです。かがむのがつらい、手に力が入りにくい、出かけるたびに手間がかかる。こうした事情があるなら、留めてもらう工夫を重ねるより、履き方のほうに靴を合わせるほうが早いことがあります。
介護用の靴には、ひもやマジックテープがなく、足を滑り込ませて履くタイプがあります(スリッポン、スリップオンと呼ばれます)。この中に、かかとの部分に芯が入っていて、踏んでもつぶれにくい作りのものがあります。留め具がなくても、かかとが支えられる形です。
留めない前提で選ぶなら、こうした靴のほうが合うことがあります。福祉用具を扱うお店で、かかとの作りがしっかりしたものを見せてもらうと選びやすくなります。
どちらが向いているかは、ふだん玄関でどう履いているかを一度見てみると、判断しやすくなります。

3. サイズの合わせ方
サイズは、長さだけでは決まりません。足の幅や甲の高さが合っているかも、履き心地と安定に関わります。
長さだけでなく、幅や周囲(ワイズ)も見る
靴には、長さのほかに足の幅や周囲の目安(ワイズ)があります。幅が広すぎる靴は中で足が動き、狭すぎる靴は痛みや靴ずれのもとになります。長さが合っていても窮屈に感じるときは、幅が合っていないことがあります。
両足を履いて、大きいほうに合わせる
左右で足の大きさが少し違うことは珍しくありません。片足だけで決めず、両足を履いて、大きいほうの足に合うものを選ぶのが基本です。
むくみが出やすい方は、午後から夕方に試す
足は1日のうちでむくみ方が変わります。夕方に足が張る方は、その時間帯に試すと、きつすぎない靴を選びやすくなります。
中敷きを抜いて、足を乗せてみる
中敷きが外せる靴なら、床に置いて足を乗せてみると、指がはみ出していないか、つま先に余裕があるかが目で見て分かります。売り場で試すときは、中敷きを外してよいかを店員さんに一声かけてからにすると安心です。
買いに行く前に、家で目安をつけておく方法もあります。いま履いている靴の中敷きを抜いて足を乗せ、どれくらい余裕があるかを見ておくと、売り場で選ぶときの手がかりになります。
その場で歩いてみる
座って履いた感触だけで決めず、実際に数歩歩いてもらいます。かかとが浮かないか、当たって痛いところがないかを、ご本人に確かめてもらうのが確実です。杖を使っている方は、杖も一緒に持って歩いてみると、ふだんに近い状態が分かります(杖の長さの合わせ方と選び方)。
4. 室内履きとスリッパ
家の中の履き物も、外と同じように考えます。
かかとのないスリッパは、脱げないように足の指で引っかけて歩くことになり、すり足が強くなります。敷物の縁や、わずかな段差で引っかかりやすく、階段では特に不安定です。製品評価技術基盤機構(NITE)がまとめた屋内での事故の例にも、立ち上がってスリッパを履こうとしたときに、敷物の上で滑って転んだという事例が挙げられています。

家の中で歩くときの安定を考えるなら、次のような選択肢があります。
- かかとまで覆われた室内履き:外履きと同じく、かかとが支えられ、甲を留められるものが安定します。
- 滑り止めの付いた靴下:靴下で過ごしたい方は、足の裏に滑り止めがあるものにすると、フローリングで滑りにくくなります。

冷えが気になるという理由でスリッパを履いている場合もあります。理由が分かれば、かかとのある暖かい室内履きに替えるなど、別の手が見つかります。心配だからと家の中で動くことそのものを控えてもらうのではなく、履き物や環境を整えて、安全に動ける形を探すのがおすすめです。
5. 買い替えの目安と、玄関の環境
足に合った靴も、履き続けるうちに傷みます。次のような状態が出てきたら、買い替えを考える目安です。
- かかとの外側が大きくすり減っている
- 靴底の溝が浅くなり、つるつるしてきた
- かかとの内側がつぶれて、床に置くと靴が傾く
- マジックテープの留まりが弱くなった
靴が傾いたまま履き続けると、足首が内側や外側に倒れやすくなります。ときどき裏返して、すり減り方を見ておくと安心です。
履くときの姿勢も、靴と同じくらい大事です
安定する靴を選んでも、立ったまま片足で履こうとすると、その瞬間にバランスを崩すことがあります。玄関に腰かけられる場所があるか、手をつける場所があるかを見直しておくと、履くこと自体が安全になります。玄関まわりの工夫は、玄関の上がり框の段差をどうする?でまとめています。
もし家の中で転んでしまったときの対応は、親が家で転んだらにまとめています。
6. 足の状態に合わせた工夫
むくみ、外反母趾、甲が高い場合
足の太さが変わりやすい方や、親指の付け根が出っ張っている方、甲が高い方は、マジックテープの部分が長く、締め具合を調整できる靴だと合わせやすくなります。当たる部分が柔らかい素材のものもあります。
装具を使っている場合
短下肢装具などを着けて歩いている方は、装具の分だけ足が太くなるため、市販の靴がそのまま入らないことがあります。履き口が大きく開き、中が深めに作られた靴があります。
装具を着けた足と、着けていない足で大きさが変わる場合は、左右でサイズを変えて、片足ずつ購入できる靴があります。福祉用具を扱うお店で相談できるので、装具を持って行って合わせてもらうのが確実です。装具に合うかどうかは、装具を作った義肢装具士やリハビリの担当者にも見てもらうと安心です。
糖尿病で足の感覚が鈍くなっている場合
足先の感覚が鈍くなっていると、靴ずれや小さな傷に気づきにくいことがあります。傷が治りにくいこともあるため、靴選びや足の手入れについては、まず主治医に相談して方針を決めるのが安心です。
7. 費用と、介護保険の扱い
靴は、介護保険の対象ではありません。介護保険でレンタルできる福祉用具は13種目(車いす、特殊寝台、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえなど)、購入費が支給される特定福祉用具は9種目(腰掛便座、入浴補助用具、簡易浴槽など)と決まっていて、靴や履き物はどちらにも含まれていません。そのため、購入にかかる費用は全額が自己負担になります。
ただし、別の制度に当てはまる場合があります。
- 治療用装具:医師が治療のために必要と認めて作った装具(靴型の装具など)は、医療保険の療養費の対象になる制度があります。いったん費用を払ったあとで、加入している健康保険に申請する流れです。
- 補装具:身体障害者手帳をお持ちで、基準に当てはまる場合は、補装具費の支給を受けられることがあります。
どちらも一般的な靴の購入とは手続きが違い、医師の判断が前提になります。当てはまりそうな場合は、病院の医療ソーシャルワーカーや、お住まいの市区町村の窓口に確認するのがおすすめです。
歩くときに支えが必要かどうかで迷っているときは、杖と歩行器、どちらが合う?選び方ナビで、候補と高さの目安を整理できます。歩き方や動きの変化を記録しておきたいときは、親の変化に気づくチェックリストが、受診や相談のときのメモとして使えます。
8. よくある質問
新しい靴にしたら、前より歩きにくいと言われました
まず、サイズと留め具合を確かめます。よくあるのは、大きめを選んでいて靴の中で足が動いている場合と、マジックテープを留めずに緩いまま履いている場合です。どちらも、かかとが浮いて歩きにくくなります。
それでも合わないときは、重さや靴底の硬さが変わったことが理由のこともあります。前の靴と並べて、持ち比べたり底を曲げ比べたりすると、何が変わったかが見えてきます。しばらく履いても慣れない場合は、無理に続けず、別のものを探すほうがよいです。
靴を買いに行くのが大変です
足を実際に見てもらえるお店で選ぶのがいちばん確実ですが、外出が難しいこともあります。その場合は、いま履いている靴の中敷きを抜いて足を乗せ、長さと幅の目安をつけておくと、選ぶときの手がかりになります。
通信販売を使うときは、返品や交換ができるかを先に確かめておくと安心です。デイサービスやデイケアを利用している場合は、事業所に相談すると、販売会などの機会を教えてもらえることがあります。
リハビリシューズと介護シューズは違いますか
呼び方の違いで、決まった定義があるわけではありません。どちらも、履き口が大きく開く、軽い、つまずきにくい形になっている、といった特徴をもつ靴を指して使われています。
名前で選ぶより、この記事の6つの見るところに当てはまるかを確かめるほうが確実です。同じ名前で売られていても、かかとの硬さや底の作りはかなり違います。
軽い靴のほうがよいですか
軽いほど足は上げやすくなりますが、軽さだけで選ぶと、かかとを支える部分まで柔らかくなっていることがあります。そうなると、足元が安定しません。
持ち上げて重く感じない範囲で、かかとがしっかりしているものを選ぶ、という順番で見るのがおすすめです。
足のサイズは、年をとると変わりますか
変わることがあります。土踏まずのアーチが低くなると、足の幅が広がったり、長さが少し変わったりします。
昔のサイズのまま買うと、合わないことがあります。新しく買うときは、その都度測り直すのがおすすめです。
外反母趾がありますが、幅の広い靴を選べばよいですか
幅を広げるだけだと、中で足が動いて、かえって当たることがあります。幅に余裕をもたせつつ、甲をしっかり留められる靴のほうが合うことが多いです。
痛みが強いときや、変形が進んでいるときは、靴だけで解決しようとせず、整形外科で相談してみるのがおすすめです。
出典・参考にした資料
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」:福祉用具貸与の対象は13種目(車いす、車いす付属品、特殊寝台、特殊寝台付属品、床ずれ防止用具、体位変換器、手すり、スロープ、歩行器、歩行補助つえ、認知症老人徘徊感知機器、移動用リフト、自動排泄処理装置)で、靴は含まれない ページ
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」:特定福祉用具販売の対象は9種目(腰掛便座、自動排泄処理装置の交換可能部品、排泄予測支援機器、入浴補助用具、簡易浴槽、移動用リフトのつり具の部品、固定用スロープ、歩行器〈歩行車は除く〉、歩行補助つえ〈松葉づえは除く〉)で、靴は含まれない ページ
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「屋内で起こる高齢者の転倒・転落事故を防ぐ」(2020年5月28日):立ち上がってスリッパを履こうとしたときに、床に敷いていたカーペットの上で滑ってバランスを崩し転倒した事故の例 ページ
- 消費者庁「高齢者の事故を防ぐために」(2021年):高齢者の「転倒・転落・墜落」による死亡者数は交通事故の約4倍で、約半数が住み慣れた自宅で起きていること ページ
- 厚生労働省「治療用装具に係る療養費について」:医師が治療のために必要と認めて作った装具が、医療保険の療養費の対象になる制度があること ページ
この記事は一般的な選び方をまとめたものです。足の痛みや変形、しびれがあるときや、装具を使っている場合は、主治医やリハビリの専門職に相談したうえで選ぶのがおすすめです。