やまねこのリハビリ・介護手帖理学療法士がひもとく、家族の安心と現場の実践ツール

親が家で転んだらあわてず、起こす前に確かめること

監修:やまねこ(運動器認定理学療法士・リハビリテーション科主任)
公開日:2026年9月24日/最終確認日:2026年9月24日

目の前で親が転ぶと、頭が真っ白になります。「早く起こさなくては」とあわててしまうのは、当たり前のことです。けれども、急に引き上げたり、抱え起こしたりすると、痛みを強めたり、けがを悪化させたりすることがあります。転んだ直後は、まずひと呼吸おいて、起こしてよい状態かどうかを確かめることが大切です。

東京消防庁の救急搬送のデータでは、高齢の方の日常生活の事故のうち8割以上が「ころぶ」事故で、住宅の中では部屋・寝室が最も多い場所でした。住み慣れた家の中でも、転ぶことはめずらしくありません。

この記事では、起こす前に確かめること、すぐに起こさないときの過ごし方、床から起き上がる手順、家族が手伝うときの考え方、そのあとに気をつけることをまとめました。いざというときに落ち着いて動けるよう、前もって目を通しておくと安心です。

この記事のポイント
  • 転んだ直後は、起こす前に頭を打っていないか、強い痛みがないか、脚の形が変わっていないかを確かめる
  • 当てはまるときは動かさずに119番。迷うときは救急相談(#7119)や消防庁のアプリ「Q助」も使える
  • 起き上がるときは、あおむけ→横向き→四つばい→動かないいすに手をついて立つ、の順に、本人のペースで
  • 家族は抱え上げない・腕を引っぱらない。声をかけてタイミングを合わせ、本人の力を借りる
  • その場で痛みがなくても、あとから痛みが出ることがある。転んだ日付と様子を記録しておく

1. 起こす前に確かめること

そばに駆け寄って、まず声をかけます。落ち着いた声で「大丈夫?」「どこか痛いところはある?」と聞くと、ご本人の不安がやわらぎ、痛みの場所も聞き出しやすくなります。抱き起こすのは、次のことを確かめてからにします。

次のときは、起こさずに119番
頭を強く打った/呼びかけても返事がはっきりしない/出血が止まらない/強い痛みで動けない/脚の形が変わっている。
血液をサラサラにする薬を飲んでいる方が頭を打ったときは、目立った傷がなくても、様子を見ずに相談するのがおすすめです。

救急車を呼ぶか迷うときは、地域の救急相談(#7119など。地域によって番号が違います)に電話して相談できます。総務省消防庁の全国版救急受診アプリ「Q助」も使えます。画面で症状を選んでいくと、「いますぐ救急車を呼びましょう」「できるだけ早めに医療機関を受診しましょう」などの目安が表示されます。

2. すぐに起こさないときの過ごし方

けがの心配があって起こさないと決めたときや、救急車を待つ間は、次のようにして過ごします。床の上に長くいると、体が冷えたり、同じ姿勢で体が痛くなったりするためです。

3. 床から起き上がる手順

けがや強い痛みがないことを確かめられたら、本人のペースで起き上がります。あわてず、動作の間にひと呼吸おきながら進めます。

リハビリの専門職から起き上がり方を教わっている場合は、その方法が最優先です。ふだん練習しているやり方が、ご本人にいちばん合っています。教わっていない場合や、思い出せない場合のために、ここでは一般的な流れを紹介します。麻痺や痛み、めまいの有無によって合う方法は変わるので、うまくいかないときは無理をせず、4章の手伝い方に進みます。
  1. あおむけのまま、少し休みます。すぐに動かず、痛いところがないかをもう一度確かめます。
  2. 顔を向けたいほうに向け、体をゆっくり転がして横向きになります。
  3. 下になった腕で床を押しながら、両手と両膝を床につけて四つばいになります。
  4. 四つばいのまま、近くの動かないいすや低い台のところまで進み、座面に両手をつきます。
  5. 力の入りやすいほうの膝を立てて、足の裏を床につけます。
  6. いすを押す力と、立てた脚の力を使って、ゆっくり立ち上がります。
  7. そのままいすに座って休み、息を整えます。
床にあおむけで寝て、両膝を軽く曲げて休んでいる高齢の女性
① あおむけで休むすぐに動かず、痛いところがないか確かめます
床の上で体を右に向け、両腕を体の前について、四つばいになる準備をしている高齢の女性
② 横向きになる体をゆっくり転がして、進みたい方向を向きます
床に両手と両膝をついた四つばいの姿勢。少し先に木製のひじ掛けいすが置いてある
③ 四つばいになる動かないいすのところまで、四つばいで進みます
いすの座面に両手をつき、片方の膝を立てて足の裏を床につけた高齢の女性
④ いすに手をつき、片膝を立てる力の入りやすいほうの足の裏を床につけます
木製のひじ掛けいすに深く腰かけ、両足の裏を床につけて休んでいる高齢の女性
⑤ 立ち上がって、いすに座るいすを押す力と、立てた脚の力を使います

使ういすは、動かないものを選びます。キャスター付きのいすや、軽い折りたたみいすは、体重をかけたときに動いて危険です。ひじ掛けのある重いいすや、壁に寄せたいす、階段の一段目などが向いています。近くにないときは、家族がいすを運んできてから始めます。

横向きになってから手をついて起きる、という流れは、布団から起き上がるときと同じ考え方です(記事「布団のままか、ベッドにするか」)。

理学療法士の視点から 転んだ場面に出くわすと、家族はどうしても気が動転して、あわてて抱き起こそうとしてしまいます。まず自分が落ち着くこと、それがいちばんの安全対策です。深呼吸をひとつしてから声をかけるだけでも、動きが変わります。もうひとつお願いしたいのが、どこで、どうして転んだのかを確かめておくことです。あとからご本人にうかがっても、「気がついたら床にいた」「よく覚えていない」という方は少なくありません。転んだ場所、そのときの動作(立ち上がった、振り向いた、トイレに向かっていた)、時間帯、履き物、明るさ。この情報がわかると、次に同じ場所で転ばないための手が打てます。写真を撮っておくのも役に立ちます。

4. 家族が手伝うときの考え方

本人の力だけでは難しいときは、家族が手を貸します。このとき大事なのは、抱え上げないことと、腕を引っぱらないことです。腕を強く引くと肩を痛めることがあり、抱え上げると、本人にも家族にも大きな負担がかかります。

厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」でも、介護の作業では原則として人を人力で抱き上げないこととされています。介護の仕事をする人向けの指針ですが、家族が家で手伝うときにも、同じ考え方が役に立ちます。

本人の力を借りる考え方は、ベッドから車いすへの乗り移りと同じです(記事「ベッドから車いすへの乗り移り(移乗)介助のポイント」)。

5. 起こしたあとに気をつけること

いすに座れても、そこで終わりにせず、しばらく様子を見ます。

6. 繰り返すときは、原因を一緒に考える

平屋の家の中を斜め上から見た図。寝室のベッドの横、寝室と廊下の境目、トイレの前、浴室の入口、玄関の段差に、注意を示すオレンジの丸い印がある。いちばん大きな印は寝室
家の中で転びやすい場所の例。住宅の中では、部屋・寝室での「ころぶ」事故が最も多く起きています

家の中で転ぶことが増えてきたときは、本人の不注意と考える前に、原因が隠れていないかを見直すのがおすすめです。あとから「どうして転んだのか」を思い出せないこともあるため、転んだそのときに、場所と状況を控えておけると役に立ちます。

介護予防で使われる国の基本チェックリストにも、転倒への不安や外出の回数をたずねる質問が入っています。その領域を土台に、リハビリの現場でご家族からよく聞く変化を足したのが、下のチェックリストです。転んだ日や、そのあとの様子の変化を記録しておくと、受診や相談のときにそのまま伝えられます。

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心配だからと、本人の家での役割をすべて家族が引き受けてしまうと、動く機会が減って、かえって体の力が落ちることがあります。やり方を工夫して、安全に続けられる方法を一緒に探すのがおすすめです。

7. よくある質問

骨折しているかどうか、家で見分ける方法はありますか?

見た目や触った感じだけで見分けるのは難しいです。痛みが軽くても骨折していることがあり、足の付け根の骨折でも立てたり少し歩けたりすることがあります。脚の形が変わっている、強い痛みで動けないときは動かさずに119番を、そこまででなくても痛みが続くときは受診するのがおすすめです。

起こすときに、腕を引っぱって手伝ってもよいですか?

腕を強く引くと、肩を痛めることがあるため、避けるのがおすすめです。本人にいすや手すりをつかんでもらい、家族は腰や骨盤のあたりに手を添えて支えます。声をかけてタイミングを合わせると、本人の力を引き出しやすくなります。

夜中に転んで、痛がっていないときは、朝まで様子を見てもよいですか?

頭を打っておらず、強い痛みや動かしにくさもなければ、暖かくして休み、朝に受診するという選び方もあります。ただし、迷うときや、いつもと様子が違うときは、夜間でも救急相談(#7119など)に電話して相談できます。床に長く寝かせたままにせず、ベッドや布団で休めるようにするのがおすすめです。

床から自分で起き上がれません。練習でできるようになりますか?

体の状態によりますが、起き上がり方を覚えることで、できるようになる方もいます。リハビリでは、床からの立ち上がりを練習することがあります。ふだん床に座る機会がない方は、やり方を知らないだけ、ということもあります。担当のリハビリの専門職や、かかりつけ医に相談してみるのがおすすめです。

何度も転ぶのは、年のせいでしょうか?

年齢による脚の力の低下も関係しますが、それだけとは限りません。飲んでいる薬の影響でふらつくことや、痛みをかばった歩き方、家の中の環境が関係していることもあります。転んだ回数や場所を記録して、かかりつけ医やケアマネジャーに伝えると、原因に合わせた対応を考えやすくなります。

転んだあと、本人が「大丈夫」と言って受診したがりません。

その場で歩けていても、あとから痛みが出ることがあります。無理に説得するより、次の定期受診のときに家族から様子を伝える、ケアマネジャーに相談する、という方法もあります。強い痛みや、歩き方の変化があるときは、早めの受診がおすすめです。

出典・参考にした資料

この記事は一般的な考え方をまとめたものです。起こし方や介助のしかたは、ご本人の体の状態によって変わります。実際の方法は、ご本人を見ているリハビリの専門職に相談するのがおすすめです。