家の中では歩けていても、「玄関の段差だけは上り下りが怖い」という方は少なくありません。玄関の土間から床に上がる段差を「上がり框(あがりかまち)」と呼びます。靴の脱ぎ履きで片足立ちになりやすく、外出のたびに通る場所でもあります。
この記事では、上がり框の段差の上り下りの基本と、置き型の手すり・踏み台・スロープ・段差解消機などの対策の選び方、介護保険の使い方をまとめました。
- 上り下りは、上りは良い脚から、下りは悪い脚から。手すりにつかまって1段ずつ
- 工事をしないなら置き型の手すり(介護保険のレンタルで要支援1から)。賃貸の家でも使える
- 段差が高いときは、踏み台で2段に分けると上り下りしやすくなる
- 靴の脱ぎ履きは、座って行うほうが安全
- 車いすで出入りするなら、スロープや段差解消機。ただしスロープは、段差の高さの12倍以上の長さが目安になる
1. 上がり框の段差が危ない理由
東京消防庁の救急搬送のデータ(2024年)では、高齢の方が住宅の中で「ころぶ」事故が多い場所は、寝室などの部屋に次いで玄関・勝手口が2番目でした。
上がり框の段差が危ないのは、次のような理由からです。
- 段差が高い:国の住宅の設計の指針では、上がり框の段差は、高齢の方が暮らしやすい水準として11cm以下(1階の玄関では18cm以下)が示されています。一方で、それより高い段差のある家も多くあります。
- 片足立ちになる:段差を上り下りするときや、靴を脱ぎ履きするときに、片足で体を支える場面が多くなります。
- つかまる場所がない:壁から離れていたり、下駄箱の上などの不安定な場所に手をついたりしがちです。
- 向きを変える:靴を脱いで上がったあとや、外に出るときに、狭い場所で体の向きを変えます。
2. 上り下りの基本(体の状態別)
段差の上り下りは、階段と同じく「上りは良い脚から、下りは悪い脚から」が基本です。上るときは力の入る脚で体を持ち上げ、下りるときは力の入る脚を上の段に残して体を支えたまま、もう一方の脚を下ろします。杖を使う場合の順番は、記事「杖の長さの合わせ方と選び方」でまとめています。
片方の手足に麻痺がある場合
手すりは、麻痺のない側の手でつかむのが基本です。ただし、家に入るとき(上り)と外に出るとき(下り)では体の向きが逆になるため、片側だけの手すりでは、どちらかで麻痺のある側になってしまいます。
- 両側に手すりを付ける:上りも下りも、麻痺のない側の手でつかめます。置き型の手すりには、左右両側に手すりが付いたものもあります。
- 体の向きを変えて同じ手すりを使う:たとえば下りるときに、横向きや後ろ向きになって、麻痺のない側の手で同じ手すりをつかむ方法です。向きを変える場所が必要で、慣れも必要になるため、専門職と一緒に練習してから使うのがおすすめです。
脚の骨折や、膝・股関節に痛みがある場合
上るときは痛みのない脚から、下りるときは痛みのある脚から下ろします。手すりは、体重を預けたい側(痛みのある脚と反対側)の手でつかめると、痛みのある脚にかかる体重を減らせます。手術のあとで、体重をかけてよい量が決められている場合は、その範囲で上り下りできるかを確かめておきます。
3. 対策の種類と選び方
| 対策 | 工事 | 介護保険 | 向いている場合 |
|---|---|---|---|
| 置き型の手すり | 不要 | レンタル(要支援1から) | つかまれば上り下りできる。賃貸の家 |
| 壁に手すりを付ける | 必要 | 住宅改修 | 近くに手すりを付けられる壁がある |
| 踏み台で段差を分ける | 置くだけのものと、固定する工事がある | 固定する工事は住宅改修 | 段差が高く、1段では上り下りがきつい |
| スロープ | 置くだけのものと、工事がある | 置くだけのものはレンタル(要支援1から)、工事は住宅改修 | 車いすで出入りする。玄関の前に長さを取れる |
| 段差解消機 | 置くだけのものと、工事が必要なものがある | レンタル(原則要介護2から) | 車いすで出入りするが、スロープの長さが取れない |
置き型の手すり
土台を床に置いて使う、工事のいらない手すりです。上がり框用のものは、平らな土台を土間に置き、壁際に立てた手すりが上がり框の側へ斜めに上がっていく形が多く見られます。奥の脚を段差の上の床に載せて支えるものや、土台の上に踏み台が一体になったものもあります。通り道のじゃまにならないよう壁際に寄せて置き、壁側の手で握ります。土間に立ったときは手すりの低い部分を握り、上がるにつれて高い部分へ手を移しながら上り下りできます。手すりが片側だけのもの、両側にあるものがあります。
工事をしないので、賃貸の家でも使え、体の状態が変わったら位置や種類を替えられます。一方で、土台の分だけ玄関の通路が狭くなり、土台の縁につまずかないよう注意が必要です。靴を置く場所や、ドアの開け閉めのじゃまにならないかも確かめます。
置き型の手すりの位置は、かんたん間取り図メーカーの部品「上がり框の手すり(置き型)」で、左だけ・右だけ・両側を切り替えて間取り図に描けます。
壁に手すりを付ける
上がり框の端の近くの壁に、縦の手すりを付けるのが一般的です。段差の下(土間)に立ったときと、上(床)に立ったときの両方でつかめる長さにします。高さや位置の目安は、記事「手すりの高さの決め方」でまとめています。壁の中に下地(手すりを留める板や柱)がない場所には、補強の工事が必要になることがあります。
踏み台で段差を分ける
土間に踏み台(式台)を置いて、高い段差を2段に分ける方法です。たとえば30cmの段差を、15cmずつの2段にできます。国の住宅の設計の指針では、踏み台は奥行き30cm以上、幅60cm以上が目安とされています。
踏み台は、乗ったときにずれたり、がたついたりしないことが大切です。手すりと一体になった置き型の踏み台もあります。踏み台を床に固定する工事は、介護保険の住宅改修(段差の解消)の対象になります。
スロープ
車いすで出入りする場合に使います。急なスロープは、上るときに押す力が要り、下るときに勢いがつくため危険です。建物のバリアフリーの基準では、スロープの傾きは「高さ1に対して長さ12」より緩やかにするとされていて、高さ20cmの段差なら長さ2.4m以上になります。上がり框の段差は高いことが多く、玄関の中にはスロープの長さを取れないこともよくあります。
段差解消機
車いすごと台に乗り、台が上下に動いて段差を越える機械です。スロープより狭い場所に置けます。玄関の外の段差や、玄関の中、縁側(掃き出し窓)から出入りするために使われます。
使うときは、台が動いている間に足先が段差に挟まれないこと、車いすのブレーキをかけることに注意します。置く場所の広さが必要で、電源が必要な製品もあるため、福祉用具専門相談員に家で確かめてもらいます。
4. 靴の脱ぎ履き
立ったまま片足で靴を脱ぎ履きすると、バランスを崩しやすくなります。座って脱ぎ履きするのが安全です。
- 腰かけ台やいすを置く:上がり框に直接座ると低すぎて、立ち上がるのが大変なことがあります。安定した腰かけ台やいすを置き、その近くに手すりがあると、座る・立つがしやすくなります。
- 長い靴べら:前かがみになりすぎずに靴を履けます。
- 靴を選ぶ:かかとまで大きく開いて、面ファスナーで留める靴は、座ったまま履きやすく、脱げにくいです。
- 明るさ:玄関の足元が暗いと、段差の端が見えにくくなります。人の動きで点く照明も便利です。
5. 介護保険の使い方
- レンタル(福祉用具貸与):工事のいらない置き型の手すりとスロープは、要支援1の方からレンタルできます。自己負担は1〜3割です。なお、敷居などの小さな段差に置いたままにして使うスロープは、2024年4月から、レンタルか購入かを選べるようになりました(持ち運んで使うスロープはレンタルのみです)。
- 段差解消機:介護保険の「移動用リフト」に含まれ、原則として要介護2以上の方がレンタルできます。
- 住宅改修:壁への手すりの取り付け、踏み台(式台)の固定、工事をするスロープの設置などは、介護保険の住宅改修の対象です。工事費20万円までが対象で、自己負担は1〜3割です。工事の前に市区町村への申請が必要で、申請より先に工事を始めると、介護保険が使えなくなることがあります。
まずは担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです(記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」)。
関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 玄関の段差など、困っている場面から、手すりの工事・レンタル・購入の自己負担の目安がわかります。6. よくある質問
踏み台とスロープは、どちらがよいですか?
歩ける方は踏み台、車いすを使う方はスロープが基本です。踏み台は段差を2段に分けて、1段あたりの高さを下げる考え方で、スロープは段差をなくす考え方です。
ただし、スロープは長さが必要です。段差が20cmあると、緩やかにするには2m前後の長さが要ることもあり、玄関の広さによっては置けません。歩ける方に長いスロープを付けると、かえって歩きにくくなることもあります。
置くだけの手すりでも大丈夫ですか?
重りで安定させる据置型の手すりは、工事をせずに使えて、介護保険のレンタルの対象です(自己負担1〜3割)。賃貸住宅や、位置を試したいときに向いています。
ただし、床が平らでないと安定しません。また、体重を強く預ける使い方をすると動くことがあるため、上り下りのときにどれくらい力をかけるかを見たうえで、工事で付ける手すりと比べて選ぶのがおすすめです。
靴を履くための椅子を置きたいのですが、どんなものがよいですか?
座ったときに足の裏が床につき、立ち上がるときに支えになる高さのものが使いやすいです。玄関に置く専用の椅子(玄関台)には、手すりが一体になったものや、収納を兼ねたものもあります。
置く場所は、上がり框に近すぎると立ち上がったときに足を踏み出す場所がなくなります。座ったまま靴を履いて、立ち上がって一歩出るところまでを想像して置き場所を決めるのがおすすめです。
上がり框の段差は、どのくらいまでなら大丈夫ですか?
一律の数字では決められません。同じ20cmでも、手すりがあるかどうか、脚の力がどれくらいあるか、片脚に痛みや麻痺があるかで、上り下りのしやすさは大きく変わります。
目安として、ご本人が手すりなしで昇降するときに、体が大きく揺れる、手をつく場所を探す、時間が急にかかるようになった、といった変化が出てきたら、対策を考える時期です。段差そのものの高さより、いまの動きを見て判断します。
玄関マットは敷かないほうがよいですか?
端がめくれる、滑る、車いすの前輪が引っかかる、という3点から、玄関まわりの敷物はつまずきのもとになりやすい場所です。
どうしても敷きたい場合は、薄くて端がめくれにくいもの、裏に滑り止めが付いているものを選び、めくれてきたら早めに替えます。歩くときに足が上がりにくくなっている方では、外すほうが安全なことが多いです。
工事をしたいのですが、何から始めればよいですか?
まず担当のケアマネジャー(まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談します。介護保険の住宅改修は、工事を始める前の申請が必要で、後から申請しても対象になりません。
手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更などが対象で、工事費20万円までを対象に、自己負担は1〜3割です。20万円は一度に使い切る必要はなく、分けて使えます。
出典・参考にした資料
- 国土交通省「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号):上がり框の段差の推奨の高さ(110mm以下、1階の玄関は180mm以下)、踏み台の奥行き300mm以上・幅600mm以上、玄関に上がり框の昇降と靴の着脱のための手すりを設けること PDF
- 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」:高齢者の「ころぶ」事故の住宅内の発生場所(居室・寝室等に次いで玄関・勝手口等が多いこと、2024年) Web
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準について」(介護保険最新情報Vol.1296、2024年8月2日):手すり・スロープ(取付工事を伴わないもの)の貸与、小さな段差の解消に使い持ち運びを要しないスロープの貸与と購入の選択制、移動用リフトの貸与と軽度者の扱い PDF
- 公益財団法人長寿科学振興財団「健康長寿ネット」介護保険の福祉用具:段差解消機(移動用リフトに含まれ、原則要介護2以上で貸与できること、足先が上がり框に挟まる危険、ブレーキの注意) Web
- 国土交通省「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」(2021年3月改正):傾斜路の勾配 PDF
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際に合う対策や上り下りの方法は、ご本人の体の状態や家の造りによって変わります。