長年、畳の部屋で布団を敷いて寝てきた方が、退院をきっかけに「ベッドにしたほうがいいですよ」と言われることがあります。一方で、「部屋が狭い」「本人が布団がいいと言う」「ベッドから落ちないか心配」と迷うご家族も多いです。
この記事では、布団とベッドの違い、ベッドが合いやすい場合と布団を続けやすい場合、布団のまま暮らす工夫と床からの立ち上がり方、介護保険でのベッドや手すりの借り方をまとめました。
- ベッドは、立ち上がりが楽で、介護する人の腰の負担も軽い。布団は、高いところから落ちる心配がなく、慣れた暮らしを続けやすい
- 床から立ち上がるのに何かにつかまらないと難しい、夜中のトイレが多い、介助が必要な場合は、ベッドを検討するのがおすすめ
- 股関節の手術のあとは、深くしゃがむ姿勢を避けるため、ベッドをすすめられることが多い
- 布団を続けるなら、床からの立ち上がり用の置き型手すり(介護保険のレンタルで要支援1から)が役立つ
- 介護ベッドのレンタルは、原則要介護2から
1. 布団とベッドの違い
| 布団 | ベッド | |
|---|---|---|
| 立ち上がり | 床から立つため、脚の力と、体を大きく動かす動作が必要 | 腰かけた姿勢から立てるので楽。高さを合わせられるとさらに楽 |
| 起き上がり | 手をつく場所が低く、起き上がりにくい | 介護ベッドは背中を起こせる。介助バーにつかまれる |
| 落ちる心配 | 高いところから落ちる心配がない | ベッドから落ちることがある。柵のすき間の事故にも注意 |
| 介護する人 | 床に近い位置での介助になり、腰に負担がかかりやすい | 介護ベッドは高さを上げて介助でき、腰の負担が軽い |
| 部屋 | たたんで部屋を広く使える | 置いたままになり、場所をとる |
2. ベッドが合いやすい場合
- 床から立ち上がるのが難しくなってきた:家具や壁につかまらないと立てない、立つまでに時間がかかる場合。
- 夜中にトイレに起きることが多い:寝ぼけた状態で、暗い中を床から立ち上がるのは、ふらつきやすい動作です。
- 寝起きや立ち上がりに介助が必要:床に近い位置での介助は、介護する人の腰を痛める原因になります。
- 腰や膝に痛みがある:床からの立ち上がりは、膝を深く曲げ、腰を大きく曲げる動作が必要です。
脚の骨折や、股関節・膝の手術のあと
股関節の人工関節の手術のあとは、手術の方法によって、股関節を深く曲げる姿勢(深くしゃがむ、床に座るなど)を避けるよう言われることがあります。布団からの寝起きはこの姿勢になりやすいため、ベッドにすることをすすめられることが多いです。膝の手術や、脚の骨折のあとも、膝を深く曲げる動作や、片脚に体重をかける動作が難しい時期は、ベッドのほうが寝起きしやすくなります。避けたほうがよい姿勢は手術によって違うため、主治医やリハビリの専門職に確かめておきます。
片方の手足に麻痺がある場合
麻痺があると、床から立ち上がるときに使える手足が片側に限られ、動作が難しくなります。ベッドにする場合は、麻痺のない側から降りられる向きに置くのが基本です(記事「介護ベッドの置き場所と、介助バーを付ける側」)。
3. 布団を続けやすい場合
- 床から安定して立ち上がれる:つかまらずに、または手すりにつかまれば安定して立てる場合は、布団を続けることも選択肢です。床からの立ち上がりは、脚や体を大きく使う動作なので、毎日続けることが体を動かす機会にもなります。
- ベッドから落ちる心配が大きい:夜中に自分で動き出してしまう方などは、ベッドの高さから落ちる心配があります。布団や、床に近い高さまで下げられるベッドを検討します。
- ご本人が慣れた暮らしを続けたい:寝る場所が変わると、落ち着いて眠れなくなる方もいます。
4. 布団のまま暮らす工夫と、床からの立ち上がり方
布団のまま暮らす工夫
- 床からの立ち上がり用の置き型手すり:布団の横に置いて、つかまって立ち上がるための手すりです。工事がいらず、介護保険のレンタルで借りられます。
- 安定した家具を近くに:手すりがない場合、手をつくのは、動いたり倒れたりしない、しっかりした家具にします。キャスターの付いた物や、軽い物には手をつかないようにします。
- 布団を厚くしすぎない:柔らかく厚い敷き布団は、手をついたときに沈んで、体を支えにくくなります。
- 布団の周りを片付ける:夜中に立つとき、足元の物につまずかないようにします。足元灯もあると安心です。
床からの立ち上がり方(一般的な方法)
- 横向きになり、下になった側の肘と手をついて、上半身を起こします。
- 両手と両膝を床について、四つばいの姿勢になります。
- 手すりや、しっかりした台に両手を移し、片方の膝を立てます(片膝立ち)。
- 手すりや台を押しながら、立てた脚に体重を乗せて、ゆっくり立ち上がります。
片膝を立てるときは、力の入る脚(片麻痺では麻痺のない側、痛みのある方は痛みのない側)を前に出すと立ちやすくなります。どの順番がやりやすいかは体の状態によって違うため、リハビリの専門職と一緒に練習しておくのがおすすめです。
床に座り込んで自分で立てなくなったときに、家族が両腕を持って真上に引っ張り上げるのは、ご本人の肩を痛めたり、介護する人が腰を痛めたりする原因になります。けがや痛みがないかを確かめ、無理に立たせようとせず、立ち上がり方を知っている人に助けを求めることを優先します。頭を打った、強い痛みがある場合は、救急の相談を考えます。
5. ベッドにするときの選び方
- 高さ:ベッドに腰かけたときに、かかとまで床につく高さが基本です。立ち上がるのが少し大変なときは、座面を少し上げると立ちやすくなります。高さを変えられる介護ベッドなら、寝起きのときと介助のときで高さを変えられます。
- 介助バー:ベッドの横に付けて、起き上がりや立ち上がりのときにつかまる手すりです。付ける側は、降りる側で決めます。
- 置き場所:トイレまでの通り道、ベッドの周りの介助のスペース、壁との間のすき間などを確かめます。畳の部屋に置く場合は、脚の跡や重さで畳が傷まないよう、脚の下に板などを敷くことがあります。
- 柵(サイドレール)のすき間:柵と柵、柵とマットレスのすき間に手足や首が挟まる事故が報告されています。すき間をふさぐカバーなどで対策します。
ベッドの置き場所や、介助バーを付ける側、柵のすき間の事故の防ぎ方は、記事「介護ベッドの置き場所と、介助バーを付ける側」でくわしくまとめています。
6. 介護保険の使い方
- 介護ベッド(特殊寝台):背中や脚の角度を変えたり、高さを変えたりできるベッドと、マットレスや介助バーなどの付属品は、原則として要介護2以上の方が介護保険でレンタルできます。自己負担は1〜3割です。
- 要支援1・2、要介護1の方:原則は対象外ですが、認定調査で「起き上がり」や「寝返り」が「できない」とされた場合などは、例外として借りられることがあります。ケアマネジャー(要支援の方は地域包括支援センター)に相談します。
- 置き型の手すり:床からの立ち上がり用など、工事のいらない手すりは、要支援1の方からレンタルできます。
- 床ずれを防ぐマットレス:床ずれ防止用具として、原則として要介護2以上の方がレンタルできます。
- 普通のベッド:高さや角度を変えられない家庭用のベッドは、介護保険の対象ではないため、自費で購入します。
7. よくある質問
本人がベッドを嫌がります。どうすればよいですか?
嫌がる理由がどこにあるかで、対応が変わります。「介護される人になったようで嫌だ」という気持ちの問題か、「落ちそうで怖い」という不安か、「畳の部屋を洋室にしたくない」という住まいへのこだわりか、で打つ手が違います。
落ちるのが怖い場合は、低くできるベッドや、マットレスを床に近づける置き方で解決できることがあります。まずは理由を聞いてみて、無理に切り替えず、日中だけ使ってみるといった段階的な方法も検討できます。
ベッドにすると、脚が弱くなりませんか?
床からの立ち上がりは、確かに脚とお尻の力を使う動作です。ただし、立ち上がれずに一日中座ったままになったり、転ぶのが怖くて動かなくなったりするほうが、活動量は減ります。
ベッドにして動きやすくなった分、トイレや台所へ行く回数が増えるなら、全体としては動く量が増えます。床からの立ち上がりを続けたい場合は、リハビリの時間や、決まった場面だけに残すという方法もあります。
布団のままで、立ち上がりやすくする方法はありますか?
床に置いて使う手すり(据置型の手すり)を布団のそばに置くと、手をついて立ち上がりやすくなります。介護保険のレンタルの対象で、自己負担は1〜3割です。
また、布団を二つ折りにして高さを出す、そばに安定した椅子を置いて手をつく、といった方法もあります。立ち上がり方そのものも、横向きになってから四つばいを経て立つ手順を確かめておくと、楽に起きられることがあります。
ベッドと布団では、寝心地はどう違いますか?
マットレスの硬さによるところが大きく、ベッドだから寝心地が悪いということはありません。介護ベッド用のマットレスにも、硬めのもの、体圧を分散するもの、床ずれを防ぐための空気が入るものなど種類があります。
柔らかすぎるマットレスは、体が沈んで寝返りや起き上がりがしにくくなります。動きやすさを優先するなら、少し硬めを選ぶことが多いです。レンタルなら交換できるので、使ってみて合わなければ相談できます。
ベッドを置くと部屋が狭くなります。
ベッド本体の大きさだけでなく、降りる側に人が立てるすき間が必要です。この分を含めて置けるかを先に確かめます。
幅の狭いタイプ(83cm幅など)や、使わないときに背もたれを倒せるものもあります。どうしても場所が足りない場合は、家具の配置そのものを見直すことになるので、家屋調査や福祉用具の相談のときに、部屋の寸法を測って相談するのがおすすめです。
介護保険でベッドを借りるには、どうすればよいですか?
担当のケアマネジャー(まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談します。ケアプランに位置づけたうえで、福祉用具貸与事業所と契約する流れです。
介護ベッド(特殊寝台)は原則として要介護2以上が対象で、要支援・要介護1の方でも体の状態によっては例外として認められることがあります。自己負担は1〜3割です。マットレスや介助バーなどの付属品も、ベッドとあわせて借りられます。
出典・参考にした資料
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準について」(介護保険最新情報Vol.1296、2024年8月2日):特殊寝台の目的(起き上がり等の動作の補助、介護者が身体を痛める危険を避けること)、要支援1・2・要介護1の方への例外的な貸与の条件(寝返り・起き上がりが「できない」など)、手すり(取付工事を伴わないもの)・床ずれ防止用具の貸与 PDF
- 医療法人社団康心会 康心会汐見台病院「人工股関節置換術の術後の禁忌肢位について」:人工股関節の手術のあとに股関節を深く曲げる姿勢を避けること、和式の生活よりいすやベッドを使うほうが脱臼の危険が下がること Web
- 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)「介護ベッド 4.隙間に挟まる」:柵のすき間の事故と対策 Web
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。布団とベッドのどちらが合うか、どんな方法で寝起きするかは、ご本人の体の状態や家の環境によって変わります。