「家で転んで、足の付け根を骨折した」。高齢の方に多い骨折で、そのまま入院・手術になることが少なくありません。
ご家族としては、「また歩けるようになるのか」「いつ家に帰れるのか」「家で暮らせるのか」が、いちばん気になるところだと思います。どこまで回復するかは、骨折する前の状態やほかの病気によって大きく違い、歩行器や車いすを使って生活を組み立てていく方もいます。
この記事では、大腿骨(だいたいこつ)の付け根の骨折について、手術の種類とその後の生活の違い、歩く練習の進み方、入院の流れ、退院までに家族ができる準備、そして次の骨折を防ぐ工夫をまとめました。
- 折れる場所で2つに分かれる。頸部(けいぶ)は骨がつきにくく、転子部(てんしぶ)はつきやすいとされている
- 手術は、骨をつなぐ方法と人工の骨頭に入れ替える方法があり、折れた場所やずれ方をもとに医師が決める
- 手術のあとは早い時期から起きて動き始めるのが基本とされている
- 練習は平行棒 → 歩行器 → 杖と進むことが多いが、進み方も、どこまで戻るかも人によって大きく違う
- 介護保険の申請は入院中からできる。家の準備は、家屋調査で専門職に見てもらってから
- 次の骨折を防ぐには、骨粗鬆症の治療と転ばない環境づくりの両方が要る
1. どこを折る骨折か(股関節のすぐそば)
太ももの骨(大腿骨)の、股関節のすぐそばの骨折です。「足の付け根を折った」「股関節を骨折した」と言われることが多い部分です。折れる場所によって、大きく2つに分けられます。
- 大腿骨頸部骨折(内側の骨折):股関節の中にある、細くなった部分の骨折です。血のめぐりが悪いため、骨がつきにくいとされています。
- 大腿骨転子部骨折(外側の骨折):股関節の外側の、太い部分の骨折です。こちらは骨がつきやすいとされています。どちらに当たるかは、レントゲンなどを見て医師が判断します。
骨がもろくなっていると、家の中で転んだり、しりもちをついたりするだけで折れることがあります。東京消防庁の救急搬送のデータでは、高齢の方の日常生活の事故のうち8割以上が「ころぶ」事故で、住宅の中では部屋・寝室が最も多い場所でした。
2. 手術の2つの方法と、その後の違い
この骨折では、寝たきりを防ぐために手術を行うことが多くなっています。方法は大きく2つで、折れた場所と、骨のずれ方によって選ばれます。どちらにするかは医師が判断します。
- 骨をつなぐ手術(骨接合術):ボルトやピン、金属の芯などで、折れた骨を留めます。ご自身の骨を残せます。頸部のずれが少ない骨折や、転子部の骨折で行われることがあります。
- 人工の骨頭に入れ替える手術(人工骨頭置換術):折れた骨の先の部分(骨頭)を取り除き、人工のものに入れ替えます。頸部の骨折で、ずれが大きい場合に行われることがあります。骨がつくのを待たなくてよいという特徴があります。
入れ替える手術のあとは、関節が外れる(脱臼)のを防ぐため、脚を動かしてよい向きが決められていることがあります。どの向きに気をつけるかは、手術で関節に入った方向(後ろから・前から・横から)によって変わります。
後ろから入る手術(後方進入)のあとに気をつける姿勢
股関節を深く曲げる、脚を内側に寄せる、内側にひねる。この組み合わせで、骨頭が後ろに外れやすくなります。暮らしの中では、次のような場面が当てはまります。
- 低いところに深く座る:低いソファ、座布団、床、和式トイレ。股関節が深く曲がります。
- 座ったまま前かがみで足元に手を伸ばす:靴下をはく、足の爪を切る、床の物を拾う、靴ひもを結ぶ。
- 脚を組む・両ひざを内側に倒す:いすで脚を組む、床での横座り、寝返りのときに上の脚が内側へ落ちる。
- 座ったまま体をひねる:後ろの物を取る、車の座席で体をねじって降りる。
避けるための工夫も、いっしょに教わることが多いです。
- 座る高さを上げる:いすは高めのものにし、低いソファには座布団を重ねます。トイレは、便座を高くする補高便座を使う方法があります。
- 足元に手を伸ばさない道具を使う:靴下をはく道具(ソックスエイド)、遠くの物を取る道具(リーチャー)、長い柄の靴べらなど。
- 寝るときの姿勢は、病院の指示に合わせる:入院中は、脚が内側に入らないように、両脚の間に枕(外転枕)を挟むことがあります。退院後も続けるかどうかは、手術の方法や時期、病院によって違います。「横向きで寝るときだけ、ひざの間にクッションを挟む」と説明されることもあるので、退院のときに確認しておくと安心です。
- 体をひねらず、足ごと向きを変える:車の乗り降りは、先に座ってから、両脚をそろえて回します。
前から入る手術(前方進入)では、注意する向きが逆になり、脚を後ろに伸ばす、外へひねる動きに気をつけます。どの向きから手術したかは、病院に確認しておくと、家での声のかけ方も決めやすくなります。
3. リハビリの進み方(歩く練習の段階)
手術のあとは、早い時期から起きる・立つことを始めます。適切な手術ができていれば、2〜3日のうちにベッドを離れて、歩く練習を始めるとされています。
寝ている時間が長くなると、脚の力が落ち、関節が硬くなり、肺炎などの合併症も起こりやすくなります。早く起きるのは、そのためです。
練習の進み方(一般的な順序)
- ベッドの上・ベッドの端:寝返り、起き上がり、端に座る練習から始めます。
- 平行棒:両手で棒につかまり、立つ・体重をかける・数歩進む練習をします。
- 歩行器:体を支える面が広いので、距離を伸ばしやすくなります(記事「歩行器の種類と選び方」)。
- 杖:支えが減り、バランスをとる力が要ります(記事「杖の長さの合わせ方と選び方」)。
- 杖なし:力とバランスが戻れば、何も持たずに歩く練習に進みます。
ただし、進み方も、かかる期間も、人によって大きく違います。骨折する前にどのくらい歩けていたか、ほかの病気があるか、痛みの出方などで変わります。杖で歩けるようになる方もいれば、歩行器を使い続けるほうが安全な方もいます。
骨折する前と同じように歩ける方もいれば、歩行器や車いすを使って暮らしを組み立てていく方もいます。「歩けるかどうか」だけで考えず、トイレに行ける、食卓まで移動できるといった、暮らしの中でできることを目標にしていきます。
「いまどの段階か」「退院までにどこまでを目指しているか」は、担当の医師とリハビリの専門職に、そのつど確かめるのがおすすめです。家族が練習の場面を見せてもらうと、家での手伝い方もつかめます。
4. 入院の流れ(急性期の病院から回復期リハビリ病棟へ)
多くの場合、次のような流れになります。
- 急性期の病院:手術と、体の状態を落ち着かせることが中心です。ここでも、早い時期からリハビリが始まります。
- 回復期リハビリ病棟:家に帰る準備のために、リハビリに時間をかける病棟です。移ることもあれば、同じ病院の中で続けることもあります。
- 自宅へ退院:必要に応じて、退院後も訪問リハビリや通所リハビリを使います。
回復期リハビリ病棟では、訓練室での練習だけでなく、着替え・トイレ・入浴といった毎日の動作そのものが練習になります。骨折のあとのリハビリ(運動器リハビリ)は、2026年6月の診療報酬改定から、回復期リハビリ病棟でも1日に最大2時間(6単位)までです。入院できる期間には決まりがあります(記事「回復期リハビリテーション病棟とは」)。
診療ガイドラインでも、入院中に多くの職種が関わってリハビリを行うこと、急性期の病院を出たあともリハビリを続けることが勧められています。
5. 退院までに、家族ができる準備
介護保険の申請は、入院中から
手すりを付ける、介護ベッドを借りる、退院後にリハビリのサービスを使う。どれにも介護保険の認定が必要です。申請は入院中からできます。認定が出るまでに時間がかかるので、早めに動くと、退院の日からサービスを使いやすくなります。
入院中の相談先は、病院の医療ソーシャルワーカー(相談員)です。担当のケアマネジャーがまだいない場合は、地域包括支援センターにも相談できます(記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」)。
家の準備は、専門職に見てもらってから
退院前に、病院のリハビリ職やケアマネジャーが家を見に来ることがあります(家屋調査)。段差、手すりを付ける場所、ベッドを置く場所などを、実際の家で決められます(記事「退院前の家屋調査とは?」)。
家族だけで判断して手すりを付けたり、ベッドを買ったりすると、体に合わないことがあります。大がかりな準備は、家屋調査や専門職の意見のあとで進めるほうが確実です。片付けや、通り道の物をどけることは、先に始めても無駄になりません。
退院前の話し合いで確かめること
退院が近づくと、病院のスタッフ、ケアマネジャー、ご本人、家族が集まって話し合う場(退院前カンファレンス)が持たれることがあります。「お風呂に入れるか」「トイレは間に合うか」「夜はどうするか」など、家での心配ごとを具体的に聞ける機会です(記事「退院前カンファレンスで確認しておきたいこと」)。
関連ツール 退院前後の準備カレンダー 入院してすぐ・入院中盤・退院が近づいたら・退院してからの、やることを時期ごとに確かめられます。6. 退院してからの生活で気をつけること
- 病院で教わった注意を続ける:気をつける動きや、体重のかけ方は、退院後も同じです。紙で受け取っておくと、家族も確認できます。
- 杖・歩行器は体に合わせて:高さが合わないと、かえって転びやすくなります。福祉用具専門相談員やリハビリの専門職に合わせてもらいます。
- 動く時間を減らさない:家に帰ると、動く機会が一気に減ります。食事は起きて食べる、トイレまで歩くなど、生活の中の動きを保つことが練習になります。
- 痛みが強くなったら相談:急に痛みが強くなった、体重をかけられなくなった、脚の形が変わったように見えるときは、早めに受診します。
手術した脚の支えが弱いと、反対の脚がつまずく
「手術した脚を引っかけて転ぶのでは」と心配されることがあります。たしかにつまずいて転ぶことはありますが、つまずくのは反対の脚のことも少なくありません。
痛みや脚の力の低下で、手術した脚で体重を支える力が弱くなると、その脚に体重を乗せている時間が短く、不安定になります。すると、反対の脚を十分に持ち上げて前に運べず、わずかな段差や敷居に引っかかってしまいます。支えきれずにふらついたり、崩れるように座り込んだりすることもあります。
つまり、気をつける先は足元だけではありません。手術した脚の負担を軽くし、支えを補うことが、そのまま転びにくさにつながります。
次のような場面に注意が向くと、安全につながります。
- 立ち上がるとき・座るとき:支えが必要になりやすい場面です。手すりやいすのひじ掛けに手をついてもらいます。
- 向きを変えるとき:片脚に体重が乗る時間が長くなります。小刻みに足を踏みかえてもらいます。
- 杖や歩行器で体重を分ける:手術した脚にかかる負担を、腕と道具に分けられます。高さが合っているかも確かめます。
- 疲れてきたとき:支える力が落ちるので、休みながら動くほうが安全です。
床の物を片付けることももちろん大切です。あわせて、「体重を支えられる場所(手すり・杖)があるか」という目で家の中を見直すと、危ない場面に気づきやすくなります。
退院後にリハビリを続ける方法は、訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)があります(記事「訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)の違いと選び方」)。
7. 次の骨折を防ぐ
一度この骨折をした方は、次の骨折を防ぐ取り組みが大切になります。診療ガイドラインでも、骨折のあとに次の骨折を防ぐこと(二次骨折の予防)が勧められています。防ぎ方は、大きく2つです。
- 骨粗鬆症(こつそしょうしょう)の治療:骨がもろくなっていることが原因のことが多いため、薬による治療や、栄養・運動について医師に相談します。骨折の治療が終わっても、骨がもろいままだと、別の場所を折ることがあります。
- 転ばない環境づくり:床の物を片付ける、通り道を広くする、夜の足元を明るくする、といった工夫です(記事「家の中の転倒を防ぐ工夫」)。手すりの取り付けや段差の解消には、介護保険の住宅改修が使えます。
8. よくある質問
手術をしないという選択はありますか?
この骨折は、手術をしないと痛みで動けない期間が長くなり、寝たきりや肺炎につながりやすいため、多くの場合は手術が勧められます。
ただし、全身の状態や持病によっては、手術の負担のほうが大きいと判断されることもあります。その場合は、痛みを抑えながら、できる範囲で体を起こしていく方針がとられます。判断は医師が行うもので、心配な点はその場で聞いておくのがおすすめです。
入院期間は、どのくらいですか?
急性期の病院で手術を受けたあと、回復期リハビリテーション病棟に移ってリハビリを続ける流れが一般的です。
この骨折で回復期リハビリ病棟に入院できる日数の上限は90日と定められていますが、上限まで入院するとは限りません。実際の退院日は、動作がどこまでできるようになったかと、自宅の環境や介護の体制が整ったかで決まります。見通しは、入院してしばらくすると病院側から示されます。
退院までに、家で何を準備すればよいですか?
必要な準備は、退院前の家屋調査や退院前カンファレンスで、専門職が実際の家を見て判断します。先回りして工事や買い物をすると、後で合わないことがあるため、まずは相談を待つのがおすすめです。
ご家族にお願いしたいのは、ふだんの暮らし方を伝えることです。どこで寝ているか、トイレまでどう行くか、誰がどの時間帯にいるか、といった情報が、方針を決める材料になります。写真を撮っておくと話が早く進みます。
また転んで折るのが心配です。
一度この骨折をした方は、反対側も折れやすいとされています。対策は、転ばない環境を整えることと、骨の状態を診てもらうことの2つです。
環境については、手すりや段差の対策、履き物の見直しが中心になります。骨については、骨粗しょう症の検査と治療が行われているかを確認する価値があります。手術をした病院で続けて診てもらうか、かかりつけ医に引き継ぐかを、退院のときに確かめておくと安心です。
どのくらいで歩けるようになりますか?
一律には言えません。折れた場所、手術の方法、もともとの歩く力、ほかの持病によって、進み方が大きく変わります。手術の翌日から体重をかけてよい場合もあれば、しばらく制限がつく場合もあります。
入院中は、担当のリハビリの専門職が、いまどの段階にいて次に何を目指しているかを説明できます。面会のときに聞いておくと、退院後の生活も想像しやすくなります。
人工股関節の手術のあと、気をつける姿勢はありますか?
手術の方法によって、脱臼しやすい姿勢が決められていることがあります。深くしゃがむ、脚を組む、内側にひねる、といった動きに制限がつく場合があり、内容は手術の進入方向によって違います。
大切なのは、その方が受けた手術に合わせた説明を、病院から受けておくことです。一般的な注意点を当てはめるより、担当の医師やリハビリの専門職から具体的に聞いて、家族も一緒に覚えておくのがおすすめです。
出典・参考にした資料
- 日本整形外科学会「大腿骨頚部骨折」(症状・病気をしらべる):内側(頚部)の骨折は血液循環が悪いため骨癒合が得られにくく、外側(転子部)の骨折は骨癒合が得やすいこと、予防は骨粗鬆症の治療と転倒しにくい環境を整えることの2点 Web
- 日本臨床整形外科学会「大腿骨頚部(近位部)骨折」:内側骨折でずれが少ない場合はボルトやピンで留める骨接合術、ずれがある場合は人工骨頭置換術、外側骨折はボルト・ピン・髄内釘などの骨接合術。適切な手術により2〜3日以内にベッドを離れて歩行訓練などのリハビリを始めること Web
- 日本整形外科学会・日本骨折治療学会「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン2021(改訂第3版)」(Mindsガイドラインライブラリの要約):入院中の多職種連携によるリハビリテーションと、急性期施設を退院したあとのリハビリテーションの継続、骨折後の二次骨折予防が推奨されていること Web
- 滋賀県立総合病院「人工関節センター」:股関節を過屈曲、屈曲+内転内旋すると後方に、過伸展、伸展+外旋すると前方に脱臼すること Web
- 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」(2024年):高齢者の日常生活事故の8割以上が「ころぶ」事故で、住宅の中では居室・寝室等が最も多いこと Web
この記事は一般的な流れをまとめたものです。手術の方法や、気をつける動き、リハビリの進み方は一人ひとり違うため、担当の医師とリハビリの専門職に確かめながら進めるのがおすすめです。