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ベッドから車いすへの乗り移り(移乗)の介助家族の腰を守りながら、安全に手伝うポイント

監修:やまねこ(運動器認定理学療法士・リハビリテーション科主任)
公開日:2026年9月19日/最終確認日:2026年9月19日

ベッドから車いすへ、車いすからベッドへ。乗り移り(移乗)は、トイレや食事、通院のたびに、1日に何度もくり返す動作です。介護するご家族にとっては、腰への負担が大きくなりやすい場面でもあります。

力まかせに持ち上げようとすると、ご本人は怖い思いをし、ご家族は腰を痛めることがあります。乗り移りは、準備と手順を整えるだけで、ずっと楽に、安全になります。

この記事では、乗り移る前の準備、立って乗り移るときの基本の流れ、座ったまま乗り移る方法、介護する人の腰を守る工夫、避けたい介助、介護保険で使える用具をまとめました。

この記事のポイント
  • 乗り移る前に、ブレーキと足を乗せる部分(フットサポート)を確かめる
  • 車いすは、ベッドのすぐ横に30度くらい斜めに置くのが目安
  • 立って乗り移るときのベッドの高さは、かかとまで床につく高さが基本。立ち上がるのが少し大変なら少し上げる。スライディングボードでは移る先を少し低くする
  • 車いすを置く側は、片麻痺の方は麻痺のない側、骨折や脚の痛みがある方は痛くない脚の側が基本。実際の方法はリハビリの専門職の指導が最優先
  • 立つのが難しい方は、ひじ掛けが上がる車いすとスライディングボードで、座ったまま乗り移る方法もある
  • 両腕を引っぱる、ズボンを持ち上げる、抱き上げる介助は避け、つらくなったら用具に頼る

1. 乗り移る前の準備

乗り移りの事故は、動き出す前の確認が抜けたときに起きやすくなります。慣れてきたころほど、毎回同じ順番で確かめる習慣をつけておくと安心です。

車いすを置く位置

ブレーキと、足を乗せる部分

ベッドの高さ

介護ベッドの端に腰かけた高齢の女性と、そのすぐ横に置いた車いすを正面から見た図。車いすは、背もたれを足元側に、座面の正面を女性のひざのほうに向けて、ベッドに対して少し斜めに置かれている。フットプレートは左右とも上げてある
車いすはベッドのすぐ横に、座面の正面を乗り移る方に向けて、30度くらい斜めに置きます。ブレーキをかけ、フットプレートは上げておきます

2. 立って乗り移るときの基本の流れ

少しの時間なら立っていられる方が、立ち上がって向きを変え、車いすに座る場合の、一般的な流れです。

乗り移りの方法は、リハビリの専門職の指導が最優先です ここで紹介するのは、一般的な基本の考え方です。立ち方、手を置く場所、回る向き、介助する人が支える位置は、ご本人の体の状態やリハビリの時期によって変わります。担当のリハビリの専門職から方法を教わっている場合は、この記事の内容より、その指導を何よりも優先します。

基本の流れ

  1. 浅く座り直す:ベッドの端に、お尻を少し前に出して浅く座ります。介助バーがあれば、つかんでもらいます。
  2. 足を引く:両足を、ひざより少し後ろに引きます。
  3. おじぎをする:頭を前に出すように、おじぎをしながら上体を前へ傾けると、お尻が自然に浮きます。
  4. 立って、向きを変える:立ち上がったら、足を小さく踏みかえながら、体ごと車いすのほうへ向きを変えます。
  5. ゆっくり座る:車いすの座面がひざの裏に当たったのを確かめてから、おじぎをしたまま、ゆっくりお尻を下ろします。
介護ベッドの端に浅く腰かけた高齢の女性を横から見た図。足をひざより後ろに引き、上体を前に傾けて、外側に開いた介助バーの握りを片手でつかんで立ち上がろうとしている
浅く座り、足を後ろに引いて、おじぎをするように上体を前へ傾けると、立ち上がりやすくなります

介助する人の立ち位置

病気による違い

入院中なら、退院前にご家族も一緒に、病院のリハビリ職員と乗り移りの介助を練習しておくと安心です(記事「退院前カンファレンスで確認しておきたいこと」)。

病院のリハビリ室で、ベッドの端に腰かけた高齢の女性が立ち上がろうとし、娘が腰に手を添えて介助している。うしろで名札を下げた理学療法士が、手を添える位置を指さして教えている
手を添える位置や声をかけるタイミングは、退院前にリハビリの職員と一緒に練習しておくと安心です

3. 座ったまま乗り移る方法

脚に力が入りにくく、立って向きを変えるのが難しい方は、スライディングボード(滑りやすい素材の板)を、ベッドと車いすの間に橋のように渡し、座ったままお尻を滑らせて乗り移る方法があります。ご家族が体を持ち上げなくてすむため、介護する人の腰の負担も軽くなります。

介護ベッドの端に座った高齢の男性が、お尻の下から車いすの座面へ渡した板の上に手をついている図。車いすはベッド側のひじ掛けを跳ね上げ、フットプレートを上げてある。娘がひざを曲げて男性の前に立ち、両手で腰を支えている
ベッド側のひじ掛けを跳ね上げ、お尻の下から車いすの座面へボードを渡します。ご本人は進む方向に手をついて、少しずつ滑らせます

4. 介護する人の腰を守る工夫と、避けたい介助

介護の仕事をする人のための国の指針でも、乗り移りの介助で人を抱き上げることは腰に大きな負担がかかるとして、原則として人の力だけで抱き上げないこと、座っていられる方にはスライディングボード、全面的に介助が必要な方にはリフトなどの用具を使うことが勧められています。ご家族の介護でも、同じ考え方が役に立ちます。

腰を守る工夫

避けたい介助

理学療法士の視点から 介助するとき、「自分が支えなければ」と、介護する人の力だけで持ち上げようとしてしまいがちです。けれども、乗り移りは、介助される方の力も借りて、二人で一緒に行う動作です。

たとえば、「さん、はい!」と声をかけて、ご本人が立ち上がる力を入れるタイミングと、手伝うタイミングを合わせるだけで、ずっと軽く立てることがあります。介助バーや手すりをつかんでもらえば、ご本人の腕の力も使えるので、介護する人にかかる力が分散されます。ご本人ができるところはご本人に任せて、足りない分だけを手伝う。それが、介護する人の腰を守り、ご本人の力を保つことにもつながります。

5. 介護保険で使える用具と相談先

乗り移りの介助に使える用具の多くは、介護保険でレンタルできます。

介助バー、スライディングボード、介助用ベルトは、介護ベッド(特殊寝台)の付属品という扱いで、介護ベッドとあわせて使う場合にレンタルできます。介護ベッドとその付属品、車いす、移動用リフトは、原則として要介護2以上の方が対象です。要支援・要介護1の方でも、体の状態によっては例外として認められることがあります。

どの用具が合うかは、ご本人の体の状態や家の広さによって変わります。まずは担当のケアマネジャー(まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に「乗り移りの介助がつらい」と伝え、福祉用具専門相談員やリハビリの専門職と一緒に選ぶのがおすすめです(記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」)。

関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 困っている場面から、福祉用具のレンタル・購入と住宅改修の自己負担の目安がわかります。

6. よくある質問

乗り移りのたびに腰が痛くなります。どうすればよいですか?

まず、いまのやり方のどこで腰に力が入っているかを見直します。体を離したまま手を伸ばしていないか、ひざを伸ばしたまま上体だけを曲げていないか、向きを変えるときに腰だけをひねっていないか、の3点がよくある原因です。
そのうえで、それでもつらいときは、用具を使う段階だと考えてよいと思います。国の腰痛予防の指針でも、乗り移りの介助は原則として人の力だけで抱き上げないこととされています。がまんして続けるより、担当のケアマネジャーに「乗り移りの介助がつらい」と伝えて、スライディングボードやリフトを検討するほうが、結果として介護を長く続けられます。

一人での介助が不安です。二人で介助したほうがよいですか?

二人いれば安全というわけではありません。二人で持ち上げる形になると、ご本人が自分の脚を使う機会がなくなり、かえって立てなくなっていくことがあります。また、声のかけ方やタイミングがそろわないと、引っぱる方向が食い違ってご本人が不安定になります。
一人では危ないと感じる状態であれば、人数を増やすより、用具や方法そのものを見直すのがおすすめです。リハビリの専門職に、実際の場面を見てもらえると確実です。

スライディングボードは、介護保険でレンタルできますか?

できます。ただし「特殊寝台付属品」という扱いなので、介護ベッド(特殊寝台)とあわせて使う場合、または既に介護ベッドを使っている方が対象です。介護ベッドとその付属品は原則として要介護2以上が対象で、要支援・要介護1の方でも、体の状態によっては例外として認められることがあります。自己負担は1〜3割です。
あわせて、ひじ掛けを跳ね上げたり外したりできる車いすも必要になります。用具がそろっているかを含めて、福祉用具専門相談員に相談するのがおすすめです。

車いすを置く向きは、いつも30度でよいですか?

30度は、向きを変える量と車いすまでの距離のバランスがとれた、一般的な目安です。ただし、部屋の広さやベッドの置き場所によっては、その角度が取れないこともあります。また、病院で別の置き方を練習している場合は、その方法に合わせるほうが、ご本人が迷いません。
角度そのものより、「車いすがベッドに近いこと」「ブレーキがかかっていること」「向きを変える量が少なくてすむこと」の3つが満たせているかで考えると、家の事情に合わせやすくなります。

途中でひざが折れてしまいそうなときは、どうすればよいですか?

立ち上がりの途中でひざの力が抜ける方は、介助する人がひざが折れやすい側に立ち、自分のひざでご本人のひざの前を軽く支える方法がとられることがあります。ただし、強く押さえると痛みや不安につながるため、力の入れ方は実際に見てもらって覚えるのが安全です。
ひざが折れる回数が増えてきたときは、立って乗り移る方法そのものを見直す時期かもしれません。座ったまま移る方法に切り替えられないか、リハビリの専門職に相談するのがおすすめです。

ベッドの高さは、毎回変えたほうがよいですか?

用途によって合う高さが違うので、変えられるなら変えるほうが楽です。おむつ交換や着替えのようにベッドの上で介助するときは、介護する人の腰が曲がらない高さまで上げます。乗り移るときは、ご本人の足の裏がかかとまで床につく高さが基本で、立ち上がるのが少し大変なら座面を少し上げます。スライディングボードで移るときは、移る先を少し低くします。
毎回動かすのが大変な場合は、乗り移りに合う高さを基本にしておき、介助のときだけ上げる形でも十分です。

出典・参考にした資料

この記事は一般的な考え方をまとめたものです。ご本人に合う乗り移りの方法は、体の状態によって変わるため、担当のリハビリの専門職と一緒に確かめるのがおすすめです。