退院が決まって介護ベッドを借りることになると、「部屋のどこに置けばいいのか」「介助バーは右と左、どちらに付けるのか」と迷うご家族は多いです。ベッドの置き方は、起き上がりや立ち上がりのしやすさ、トイレまでの移動、転倒の防ぎやすさに直接かかわります。
この記事では、置き場所を決める順番と、介助バーの付け方、安全に使うための注意点をまとめました。
- 最初に「どちら側から降りるか」を決めると、置き場所も介助バーの側も決まる
- どちら側から降りるかは、リハビリの専門職の指導が最優先。入院中に練習している降り方に合わせる
- 一般的な基本は、片麻痺の方は麻痺のない側から降りる向き。骨折や脚の痛みがある方は、車いすなどを痛くない脚の側に置いて、痛くない脚を軸に回れるようにする
- 高さは、ベッドの端に座ってかかとまで床につくくらいが目安
- 介助バーは降りる側に付ける。サイドレール(柵)を立ち上がりの支えにするのは危険
- 手すりや柵のすき間に、頭や首、手足が挟まる事故に注意
1. 最初に「降りる側」を決める
ベッドの置き場所は、部屋の形から考えるより、ご本人がベッドのどちら側から降りるかから考えると決めやすくなります。降りる側が決まれば、次のことが順に決まっていきます。
- 降りる側を空ける:起き上がってベッドの端に座り、立ち上がる場所です。車いすやポータブルトイレに乗り移る方は、それを置く場所も降りる側に必要です。
- 反対側は壁に寄せられる:降りない側を壁に付けると、寝ている間に落ちる心配が減り、部屋も広く使えます。
- 介助バーは降りる側に付ける:起き上がりや立ち上がりのときに握ります(5章)。
できれば、降りる側がトイレや部屋の出口に近い側になると、移動の距離が短くなります。ただし、体の動かしやすさ(次の章)のほうを優先して決めるのがおすすめです。
2. 片麻痺の方、骨折や脚の痛みがある方の場合
片麻痺の方
脳卒中などで体の片側に麻痺がある方は、麻痺のない側から降りられる向きにベッドを置くのが基本です。
起き上がるときは、麻痺のない側へ横向きになり、麻痺のない側の肘や手で体を支えて起き上がります。そのまま麻痺のない側に足を下ろしてベッドの端に座るので、麻痺のない側が「降りる側」になります。車いすやポータブルトイレに乗り移る方は、乗り移る先も麻痺のない側に置くのが基本です。
たとえば右半身に麻痺がある方なら、あお向けに寝たときの左側から降ります。ベッドの右側を壁に寄せ、左側を空けて置くのが基本の形です。
ただし、麻痺のある側の手足を使う練習として、あえて麻痺のある側へ起き上がる方法をリハビリで取り入れることもあります。
骨折や脚の痛みがある方
骨折や手術のあとで片方の脚が痛む方や、ひざや股関節の痛みが片方の脚にある方は、車いすやポータブルトイレに乗り移るとき、乗り移る先を痛くない脚の側に置き、痛くない脚を軸にして回るのが基本です。痛い脚をひねったり、痛い脚に体重をかけすぎたりせずに向きを変えられます。
どちら側から降りるかは、手術の方法や、リハビリの時期によって変わります。
- 人工股関節・人工骨頭の手術のあと:脱臼を防ぐために、脚を動かしてよい方向や曲げてよい角度が決められていることがあります。手術のあとまもない時期は、手術した脚の側へ降りるほうが、股関節が内側に入りにくいとする研究もあります。
- 動き方の練習が中心になる時期:回復期のリハビリなど、家での動作を練習する時期には、体の状態に合わせて、反対側から降りる練習をすることもあります。
このように、骨折や脚の痛みがある方の降りる側は一通りに決まらないため、病院で教わっている降り方に合わせてベッドを置くのが確実です。
部屋の都合で、降りたい側を空けられないこともあります。そのときは、ベッドの頭側と足側を入れ替えて置くと、同じ壁ぎわでも、降りる側が反対になります。
3. ベッドの高さ
介護ベッドは、電動で高さを変えられます。場面によって、合う高さが変わります。
- 起き上がって座る・立ち上がるとき:ベッドの端に座って、足の裏がかかとまでしっかり床につく高さが基本です。立ち上がるのが少し大変なときは、座面を少し上げると立ちやすくなります。ただし、高すぎると、座ったときに足が浮いて不安定になり、降りるときに転びやすくなります。
- 立ち上がりにくい方:足がしっかり床につく範囲で少し高めにすると、立ち上がりやすくなることがあります。どこまで上げてよいかは、リハビリの専門職に確認しておくと安心です。
- 車いすやポータブルトイレに乗り移るとき:いったん立って向きを変えて乗り移る場合は、立ち上がるときと同じく、かかとまで床につく高さが基本です。
- 車いすへ、座ったまま乗り移るとき:スライディングボード(移乗用の板)を使って滑るように乗り移る場合は、移る先を少し低くすると滑らせやすくなります。ベッドから車いすへ移るときは、ベッドを車いすの座面と同じか、少し高めにします(記事「ベッドから車いすへの乗り移り(移乗)の介助」)。
- ご家族が介助するとき:おむつ交換や着替えの介助では、介助する人の腰の高さくらいまで上げると、腰への負担が軽くなります。終わったら、元の高さに戻しておきます。
寝ている間は、低めにしておくと、万一ベッドから落ちたときの衝撃を小さくできます。
4. 部屋の中の置き場所と、通り道
置く前に確かめておくこと
- 高さを変えたときに、ぶつからないか:ベッドは高さを変えるとき、機種によっては少し前後に動きながら上がり下がりします。置いたら一度、いちばん低い位置からいちばん高い位置まで動かして、壁や棚、窓枠に当たらないか確かめます。
- 介助する人が立つ場所:食事や着替え、おむつ交換などの介助が多い方は、介助する人がベッドの横に立てる広さが必要です。両側から介助することが多い場合は、壁から離して置くこともあります。
- 床の強さ:介護ベッドは重いため、置く床の強さを確かめておきます。畳の上に置くときは、へこみを防ぐ板を敷くことがあります。福祉用具の事業者に相談すると安心です。
- キャスター(車輪)の固定:キャスター付きのベッドは、置いたら必ず固定しておきます。
- コンセントの位置:電源コードが通り道を横切らない位置にあるかを確かめます。
トイレや部屋の出口までの通り道
- ベッドからトイレ、部屋の出口までの通り道には、物や電気のコード、めくれやすい敷物を置かないようにします。
- 夜中にトイレへ行く方は、足元を照らす明かり(人が近づくと点くセンサーライトなど)があると安心です。照明のスイッチやリモコンは、ベッドに座ったまま手が届く場所に置きます。
- トイレが遠い、夜は間に合わないなどの場合は、ベッドの横にポータブルトイレを置く方法もあります(記事「ポータブルトイレの置き場所と選び方」)。
よく使う物は、手の届くところに
眼鏡、電話、飲み物、呼び出し用のベルなどは、ベッドに座ったまま、無理に身を乗り出さずに手が届く場所に置きます。片麻痺の方は、麻痺のない側に置くと取りやすくなります。ベッドの上から床の物を拾おうとして落ちることもあるため、物は床に置かないようにするのがおすすめです。
階段の上り下りが難しい場合は、2階の寝室ではなく、1階の居間などにベッドを置くこともよくあります。家具を動かす前に、間取り図の上でベッドの位置や通り道を試しておくと、ご家族で相談しやすくなります。
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介助バーは、介護ベッドの側面に取り付ける手すりです。先端側を外に開くと、起き上がり、ベッドの端からの立ち上がり、車いすへの乗り移りのときの支えになります。
- 付ける側:降りる側に付けます。取り付ける場所はベッドの頭側の側面に決まっているので、迷うのは基本的に左右のどちらに付けるかだけです。降りる側に付けておけば、ベッドの端に座ったときに手が届き、起き上がりから立ち上がりまで同じバーを使えます。
- 開く角度:開き方によって握る位置が変わります。立ち上がりやすい角度を専門職と一緒に決めて、使うときは決めた角度でしっかり固定(ロック)します。固定されていないと、体重をかけたときにバーが動いて転ぶことがあります。
- ほかの福祉用具との位置:車いすやポータブルトイレに乗り移る方は、介助バーを握って立ち、向きを変えて座るまでの動きがつながるように、置き場所と一緒に決めます。
介護ベッドを使っていない方は
介助バーは介護ベッド用の付属品です。ふつうのベッドや布団で寝ている方は、床に置く手すりや、床と天井のあいだに突っ張って固定する縦の手すりを、寝床の横に置く方法があります。どちらも工事がいらず、介護保険でレンタルでき、要支援1の方から借りられます。
6. サイドレール(柵)の使い方と、すき間の事故
サイドレールは、立ち上がりの支えにしない
サイドレールは、寝ている間にベッドから落ちたり、布団がずり落ちたりするのを防ぐための柵です。ベッドの穴に差し込んであるだけのものが多く、つかんで体重をかけるための物ではありません。厚生労働省の資料でも、起き上がりや立ち上がりの支えにサイドレールを使うことは危険なため、使うべきでないとされています。支えが必要な場合は、介助バーを使います。
すき間に挟まる事故に注意
介護ベッドでは、手すりや柵とベッドのあいだ、柵の格子のすき間などに、頭や首、手足が挟まる事故が起きています。命にかかわる事故も起きているため、次の点に気をつけます。
- 安全の基準を満たした製品を使う。古いベッドや柵を譲り受けて使う場合は、とくに注意が必要です
- 挟まりそうなすき間は、専用のカバーやクッションなどで、できるだけなくす
- ベッドを動かす(背中を上げる・高さを変える)ときは、すき間に手足が入っていないか確かめてから操作する
- 手元のスイッチは、ご本人が寝返りなどで押してしまわない場所に掛けておく
ベッドのまわりを柵で囲むと、かえって危ないことも
夜中に一人で降りようとするのが心配で、ベッドの四方を柵で囲みたくなることがあります。しかし、囲まれて降りられないと、柵を乗り越えようとして、かえって高い位置から落ちる危険があります。心配なときは、ベッドを低くしておく、ベッドから離れたことを知らせるセンサーを使うなど、囲む以外の方法をケアマネジャーに相談するのがおすすめです。
7. 介護保険で借りるには
- 借りられる物:介護ベッドと、その付属品(マットレス、サイドレール、介助バーなど)は、介護保険でレンタルできます。自己負担は1〜3割です。
- 対象になる方:原則として要介護2以上の方です。要支援1・2と要介護1の方は原則として対象外ですが、病気の状態などから必要と認められる場合は、医師の意見などをもとに、例外として借りられることがあります。
- 床に置く手すり・突っ張る手すり:要支援1の方から借りられます。
まずは担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです。それぞれの役割は、記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」でまとめています。
関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 介護ベッドや介助バー、床に置く手すりのレンタルの自己負担の目安がわかります。8. よくある質問
介護ベッドは、部屋のどこに置くのがよいですか?
降りる側を先に決めて、その側に人が立てるすき間を確保するのが出発点です。降りる側が壁に向いていると、介助する人が入れず、ご本人も手すりに手が届きません。
そのうえで、トイレまでの通り道が短くなる向き、窓や出入口から見えやすい位置、エアコンの風が直接当たらない場所、という順に整えます。家具を動かす前に、床にテープを貼ってベッドの大きさを示してみると、通り道の狭さが分かりやすくなります。
ベッドの高さは、どのくらいに合わせますか?
座ったときに足の裏がかかとまで床につく高さが基本です。ここが座っている姿勢の安定を決めます。
そのうえで、立ち上がるのが少し大変な方は、座面を少し上げると楽になります。上げすぎると足が浮いて不安定になるので、「かかとがつく高さ」を基準にして、そこから少しだけ調整する形が安全です。おむつ交換や着替えなど、ベッドの上で介助するときは、介護する人の腰が曲がらない高さまで一度上げて、終わったら戻します。
サイドレール(柵)は、たくさん付けたほうが安全ですか?
数を増やすほど安全になるわけではありません。柵とマットレスのすき間、柵と柵の間に手足や首が挟まる事故が報告されています。
また、四方を囲む使い方は、起き上がろうとして乗り越えたときに、かえって大きなけがにつながることがあります。柵は「落ちないため」だけでなく「つかまって起き上がるため」にも使うものなので、何本をどこに付けるかは、ご本人の動きを見て決めるのがおすすめです。
介助バーは、どちら側に付けますか?
降りる側に付けるのが基本です。起き上がって、腰かけて、立ち上がるまでを一続きの動作として支えます。
片方の手足に麻痺がある方は麻痺のない側、骨折や脚の痛みがある方は痛くない脚の側が基本になりますが、リハビリの専門職から指導を受けている場合は、その方法を何よりも優先します。位置は、座ったときに手が自然に届き、体の前に出すぎない場所に合わせます。
畳の部屋に介護ベッドを置いても大丈夫ですか?
置けますが、脚の部分に重さが集中して畳がへこむことがあります。ベッドの脚の下に板を敷いて、力を分散させる方法がよくとられます。
また、畳の上は少し沈むため、ベッドがわずかに傾くことがあります。設置のときに水平を確かめてもらうと安心です。レンタル業者が設置まで行うので、畳であることを事前に伝えておくのがおすすめです。
要介護1ですが、介護ベッドは借りられませんか?
介護ベッド(特殊寝台)とその付属品は、原則として要介護2以上が対象です。ただし、要支援・要介護1の方でも、日常的に起き上がりや寝返りが難しいなど、体の状態によっては例外として認められる場合があります。
判断は市区町村が行うため、まず担当のケアマネジャーに、実際に困っている場面を具体的に伝えるのがおすすめです。認められない場合も、自費でのレンタルや、置き型の手すりなど別の方法が検討できます。
出典・参考にした資料
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準について」(介護保険最新情報Vol.1296、2024年8月2日):介護ベッドの配置の考え方(部屋の形・出入口・起き上がる方向)、床の強さ、サイドレールを起き上がり・立ち上がりの支えに使わないこと、ベッド用手すり(介助バー)の取り付け位置、柵で囲むことの扱い、要支援・要介護1の方の例外的な利用 PDF
- 理学療法学(日本理学療法士学会)「人工股関節全置換術術後急性期患者におけるベッドからの起き上がり方法の違いが動作時の股関節角度,時間,疼痛,困難感に与える影響」:手術のあとまもない時期に、手術した側へ降りる方法は、反対側へ降りる方法より、手術した股関節が内側へ入る角度(内転)が小さいこと 論文
- 済生会横浜市南部病院 人工股関節置換術を受ける方向けのパンフレット:車いすは手術をしていない足の側に置き、足をひねらないように少しずつ体を回して座ること PDF
- 独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)「介護ベッド 4.隙間に挟まる」「介護ベッド 2.さくをつかんだ手が挟まれる」:すき間の事故と対策 ページ・ページ
- 医療・介護ベッド安全普及協議会「ベッドの安全使用マニュアル」:ベッドの高さ(足の裏が床につく高さ)、置くときの確認(高さを変えて壁や棚に当たらないか、キャスターの固定、転落のおそれがある側を壁にする)、手元スイッチの掛け方 PDF
- 健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)「介護保険の福祉用具:特殊寝台とは」:高さを変えるときのベッドの動き、介助のためのスペース ページ
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際の置き場所や介助バーの位置は、ご本人の体の状態や部屋の広さによって変わります。