「夜中のトイレが心配」「トイレまで間に合わない」というときに役立つのが、部屋の中に置けるポータブルトイレです。一方で、置き場所や高さが合っていないと、立ち座りや向きを変えるときにふらついて、かえって転びやすくなることもあります。
この記事では、ベッドとの位置関係を中心に、置き方の工夫、種類と値段の目安、夜のトイレを安全にする工夫、立ち座りを介助するときのポイント、介護保険で買う流れと注意点をまとめました。
- 排泄はトイレでするのが基本。トイレまで行くのが難しい時間や場面で使う(夜だけ使う方も多い)
- 置き場所は、ベッドの降りる側で、基本はベッドのすぐ横に寄せて置く(動作が安定してくれば、少し離すこともある)
- 片麻痺の方は麻痺のない側、骨折や脚の痛みがある方は痛くない脚の側へ回って座れる位置が基本。ただしリハビリの専門職の指導が最優先
- 高さは、座ってかかとまで床につくくらい。立ち上がるときに足を後ろに引ける形のものが立ちやすい
- 夜は、足元の明かりと、起きてすぐに立たないことを大切に
- 値段はプラスチック製・金属製で2万円前後から、木製(家具調)で3万〜8万円ほどが目安
- 介護保険では購入になる。年度ごとに10万円まで、指定を受けた事業者で買う(通信販売は対象外とされることがある)
1. ポータブルトイレを使う場面
排泄は、できるだけトイレでするのが基本です。トイレまで安全に歩いて行ける方は、トイレを使い続けるほうが、歩く機会や生活のリズムを保ちやすくなります。
ポータブルトイレが役に立つのは、次のような場面です。
- 夜中や明け方に、暗い中をトイレまで歩くと転びそう
- トイレが遠い、移動に時間がかかって間に合わないことがある
- 夜中に何度もトイレに起きて、そのたびの付き添いがご家族の負担になっている
- 体調によって、トイレまで歩くのが難しい日がある
「日中はトイレ、夜だけポータブルトイレ」というように、時間帯で使い分ける方も多いです。
2. 置き場所(ベッドとの位置)
ポータブルトイレは、主にベッドの横に置いて使います。置き場所の考え方は次のとおりです。
- ベッドの降りる側に置く:起き上がってベッドの端に座り、そこから立ってポータブルトイレに座ります。ベッドの降りる側の決め方は、記事「介護ベッドの置き場所と介助バーを付ける側」でまとめています。
- 基本は、ベッドのすぐ横に寄せる:ベッドの側面にくっつけるように置くのが基本の形です。ベッドの端に座ったところから、立って少し向きを変えるだけで座れます。ベッドまでの距離が近いほど、歩く距離も、向きを変える量も小さくなり、ふらつきにくくなります。
- 動けるようになったら、少し離すこともある:立ち座りや歩くことが安定してくると、ベッドから数歩離れた場所に置くこともあります。どこまで離せるかは、そのときの動作の安定によって変わります。
- 片麻痺の方:立ったあとは、麻痺のない側の足を軸にして向きを変えるほうが安定しやすいため、麻痺のない側へ向きを変えて座れる位置に置くのが基本とされています。
- 骨折や脚の痛みがある方:痛い脚をひねったり、体重をかけすぎたりしないよう、痛くない脚を軸にして回れる位置(痛くない脚の側)に置くのが基本です。
- 立ち上がりの支えを近くに:ベッドから立つときは介助バー、ポータブルトイレから立つときは肘掛けや、近くに置いた手すりが支えになります。軽いポータブルトイレは、肘掛けに強く体重をかけると動いたり傾いたりすることがあるため、立つときの支えは、介助バーや床に置く手すりのほうが安心です。
- 後片付けのしやすさ:バケツを取り出す向き(ふたを開けて上から取り出す、後ろから引き出すなど)を確かめ、ご家族が片付けやすい向きに置きます。
ここで紹介したのは一般的な基本の考え方です。リハビリの時期や目指している動き方によっては、あえて別の向きで練習することもあります。担当のリハビリの専門職から乗り移り方を教わっている場合は、その指導を何よりも優先します。
介助バーの位置、ベッドの向き、部屋の広さによって、置ける場所は変わります。ご本人が実際に立って向きを変えて座る動きを、リハビリの専門職や福祉用具専門相談員に見てもらって決めるのがおすすめです。家具の配置を考えるときは、かんたん間取り図メーカーで、ベッドとポータブルトイレの位置を描いて試すこともできます。
3. 置き方の工夫(高さ・固定)
- 高さ:座ったときに、足の裏がかかとまで床につく高さが基本です。立ち上がるのが少し大変なときは、座面を少し上げると立ちやすくなります。立ってから向きを変えて座るので、ベッドの高さもこの高さにそろえておくと、どちらでも同じ感覚で立ち座りできます。脚の長さを調節できるものが多いです。
- 足を後ろに引ける形:立ち上がるときは、足を少し後ろに引いて、おじぎをするように体を前に傾けてから立ちます。便座の下に足を引ける空間があるものは、立ち上がりやすくなります。
- 動かないように:床の上で滑らないよう、滑り止めのマットの上に置いたり、壁や家具に寄せたりします。
- 床の汚れを防ぐ:下に防水のシートやマットを敷いておくと、汚れたときの掃除が楽になります。
- 目隠し:ご家族と同じ部屋で使う場合は、ついたてやカーテンがあると、ご本人も気兼ねなく使いやすくなります。
4. 種類と選び方
プラスチック製
軽くて持ち運びやすく、丸洗いしやすいのが特長です。値段も比較的手ごろです。一方で、軽いぶん、体重をかけると動きやすいことがあります。
向いている方:立ち座りが比較的安定している方、夜だけなど使う時間が短い方
木製(家具調)
重さがあって安定しやすく、ふたを閉めると椅子のように見えるため、部屋になじみます。肘掛けがはね上がるものは、横から乗り移りやすくなります。重いぶん、移動や掃除には手間がかかります。
向いている方:立ち座りのときに体重を預けやすいものがほしい方、居間など人目のある部屋に置く方
金属製(パイプの枠のもの)
パイプ椅子のような形で、軽くて動かしやすく、脚の高さを細かく調節しやすいのが特長です。折りたためるものもあり、使わないときは片付けられます。枠だけの形なので、掃除もしやすくなっています。
向いている方:使うときだけ出して、片付けておきたい方、置く場所が限られている方
高さ調節、肘掛けのはね上げ、背もたれの有無は、素材にかかわらず、製品によって違います。素材だけで決めず、必要な機能が付いているかを確かめるのがおすすめです。
あると助かる機能
- 温かい便座:冬の冷たさが和らぎます。コンセントが必要です。
- 温水で洗う機能:おしりを洗えます。水を入れるタンクが付いたものもあります。
- においを抑えるふた・消臭の機能:寝室に置く場合に役立ちます。
- ラップ式(自動で包むもの):使うたびに排泄物をフィルムで包むため、バケツを洗う手間が減ります。専用のフィルムの費用が続けてかかります。
- 水洗式:トイレのように水で流せます。設置の工事が必要になることがあり、その費用は介護保険の対象になりません。
- やわらかい便座:長く座っていてもお尻が痛くなりにくくなります。
機能が増えるほど値段は上がります。介護保険の補助は年度で10万円までなので、必要な機能をしぼって選ぶのがおすすめです。
5. 夜のトイレを安全にする工夫
- 起きてすぐに立たない:寝ていた状態から急に立つと、立ちくらみでふらつくことがあります。ベッドの端に座って、少し落ち着いてから立つのがおすすめです。
- 足元の明かり:人が近づくと点くセンサーライトや、足元を照らす小さな明かりがあると安心です。
- 手の届くところに:トイレットペーパーや手を拭くものは、座ったまま手が届く場所に置きます。
- 上げ下ろししやすい服:ウエストがゴムのズボンなど、片手でも上げ下ろししやすい服にしておくと、立っている時間が短くなります。立ったままズボンを上げ下ろしするときは、介助バーや手すりにつかまって行います(記事「トイレの手すりの付け方」)。
- 部屋の寒さ:冬は、便座を温める機能や部屋の暖房を使い、寒い中での排泄を避けます。
眠る前に飲む薬によっては、夜中にふらつきやすくなることがあります。夜中のふらつきが気になるときは、医師や薬剤師に相談しておくと安心です。
6. 立ち座りを介助するときのポイント
ご家族が横で手を貸す場合は、次のような点に気をつけると、お互いに安全で、体への負担も少なくなります。
- 本人の力を引き出す:介助する人が力ずくで引き上げるより、「せーの」と声をかけてタイミングを合わせ、ご本人が自分で前に体を傾けて立つ動きを引き出すほうが、お互いに安全です。ご本人の力が入るのを待ってから、足りないぶんだけ支えます。
- 腕を引っぱらない:手や腕を引くと、肩を痛めたり、後ろに引き戻されてバランスを崩したりすることがあります。支えるのは、腰やお尻など体の重心に近いところです。
- 向きを変えるときは、足を細かく踏みかえる:足の裏を床につけたまま体だけをひねると、膝や股関節に負担がかかります。小きざみに足を運んで向きを変えます。
- 座るときは、座面を確かめてから:後ろの肘掛けや便座に手を触れて位置を確かめてから、ゆっくり腰を下ろします。「ドスン」と座ると、尻もちや腰の痛みにつながることがあります。
- ズボンは立つ前に少しゆるめておく:立っている時間が短いほど、ふらつく機会が減ります。
- 夜は介助する人もふらつきやすい:寝起きは、ご家族も足元が不安定になります。明かりを付け、立ち上がる前にひと呼吸おくと安心です。
ベッドから立ち上がって向きを変える動きの詳しい手順は、記事「ベッドから車いすへの乗り移り(移乗)介助のポイント」でまとめています。ポータブルトイレへの乗り移りにも、同じ考え方が使えます。
介助のしかたは、ご本人の体の状態によって変わります。担当のリハビリの専門職から手順を教わっている場合は、その指導を何よりも優先します。
7. においと後片付け
ポータブルトイレを使うと、バケツの片付けが毎日の仕事になります。無理なく続けられる方法を、はじめに決めておくのがおすすめです。
- バケツに少し水や消臭剤を入れておくと、においや汚れが付きにくくなります。
- 片付けは、使うたびに行うか、朝にまとめて行うかを、ご家族の生活に合わせて決めます。
- 固まる薬剤の入った使い捨ての処理袋を使うと、バケツを洗う手間を減らせます。
ご家族だけでの後片付けが難しい場合は、選ぶ前にケアマネジャーに相談しておくと、ホームヘルパー(訪問介護)の手伝いも含めて考えてもらえます。
8. 値段の目安と、介護保険で買う流れ
ポータブルトイレは、直接肌に触れて使うため、介護保険ではレンタルではなく購入(特定福祉用具販売)の対象です。
値段の目安
- プラスチック製・金属製:2万円前後からのものが多くあります。
- 木製(家具調):3万〜8万円ほどが目安です。
- 機能が多いもの:温水で洗う機能やラップ式などが付くと、10万円を超えるものもあります。
介護保険を使うと、自己負担は1〜3割です。たとえば3万円のものを自己負担1割で買うと、3千円ほどになります。介護保険の枠は年度で10万円までなので、必要な機能をしぼって選ぶのがおすすめです。
相談から購入までの流れ
- 担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談します。
- 福祉用具専門相談員に、部屋の広さ、ベッドの高さ、立ち座りの様子、後片付けをする方の都合を伝えて、合うものを選びます。実物を見られるお店もあります。
- 都道府県などの指定を受けた事業者から購入します。
- 市区町村へ支給の申請をします。いったん全額を支払い、あとから自己負担分を除いた額が戻るのが基本です(市区町村によっては、はじめから自己負担分だけを支払う方法もあります)。
気をつけたいこと
- 上限:毎年4月から翌年3月までの1年間で、購入費10万円までが対象です(入浴用のいすなど、ほかの購入品と合わせての金額です)。
- 買うお店:都道府県などの指定を受けた事業者で買う必要があります。指定を受けていないお店で買うと、介護保険の対象にならず、全額自己負担になります。
- インターネットの通信販売:福祉用具専門相談員の助言を受けて選ぶことが前提になっているため、指定を受けた事業者からの通信販売であっても、対象にならないとしている市区町村があります。通販で買う前に、市区町村やケアマネジャーに確認しておくと安心です。
- 買う前に認定を:要支援・要介護の認定を受けていることが前提です。認定の申請中に買った場合は、認定が出れば対象になります(支給の申請は、認定結果が出てからになります)。非該当となった場合は、全額自己負担になります。
- 同じ種目をもう一度買うとき:原則として対象になりません。体の状態が大きく変わって合わなくなった場合など、例外として認められることがあります。
- 対象になる方:要支援1の方は、移動が自分でできることが多く、使う場面が想定しにくいとされています。必要かどうかを、ケアマネジャーや地域包括支援センターと相談しながら決めることになります。
買う前に、担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです。それぞれの役割は、記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」でまとめています。
9. よくある質問
ポータブルトイレは、介護保険でレンタルできますか?
できません。直接肌に触れて使うものなので、介護保険では購入(特定福祉用具販売)の対象になります。年度ごとに購入費10万円までが対象で、自己負担は1〜3割です。
値段はどれくらいですか?
プラスチック製や金属製で2万円前後から、木製(家具調)で3万〜8万円ほどが目安です。温水で洗う機能やラップ式などが付くと、10万円を超えるものもあります。自己負担1割の方なら、3万円のもので3千円ほどになります。
インターネットの通販で買っても、介護保険の対象になりますか?
対象にならないとしている市区町村があります。福祉用具専門相談員の助言を受けて選ぶことが前提になっているためです。取り扱いは市区町村によって違うので、買う前にケアマネジャーや市区町村に確認しておくのがおすすめです。
認定の結果が出る前に買っても大丈夫ですか?
認定の申請中に買った場合は、要支援・要介護のいずれかに認定されれば対象になります。ただし、非該当となったときは全額自己負担になります。急ぎでなければ、認定の結果を待つか、ケアマネジャーに相談してから決めると安心です。
においが気になります。どうすればよいですか?
バケツに少し水や消臭剤を入れておく、固まる薬剤の入った処理袋を使う、ふたを閉めておく、こまめに片付ける、といった方法があります。においを抑えるふたや消臭の機能が付いた製品もあります。それでも気になるときは、部屋の換気や、置く位置(ベッドの頭側から少し離す)も合わせて見直します。
使わなくなったら、どう片付けますか?
体の状態がよくなって使わなくなった場合は、お住まいの市区町村のごみの区分にしたがって処分します(多くは粗大ごみです)。買ったお店で引き取りを行っていることもあるため、まず相談してみるのがおすすめです。しばらく様子を見たい時期は、ふたを閉めていすとして置いておく方もいます。
出典・参考にした資料
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準について」(介護保険最新情報Vol.1296、2024年8月2日):腰掛便座(ポータブルトイレ)の範囲、使う場面(排泄はトイレでするのが基本であること、主にベッドのそばで使うこと)、置き場所(ベッドから移りやすく転びにくい場所)、バケツの掃除などの確認、水洗式の設置費用の扱い、要支援1の方の扱い PDF
- 健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)「介護保険の福祉用具:腰掛便座」:ポータブルトイレの種類、選ぶときのポイント(便座の高さ、足を手前に引く空間、安定した姿勢) ページ
- ダスキンヘルスレント(福祉用具の貸与・販売事業者)「ポータブルトイレの種類や機能、選び方」:素材ごとの特徴(樹脂製は軽く手ごろ、木製は重く安定し部屋になじむ、金属製は軽く高さ調節がしやすい)と、温かい便座・温水で洗う機能・ラップ式・水洗式などの機能 ページ
- 藤沢市「介護保険福祉用具購入に係るQ&A」:要支援・要介護の認定を受けていない方は支給対象とならないこと、認定の申請中に購入した場合の扱い、指定を受けていない事業者からの購入は対象外であること、インターネット(通信販売)で購入した福祉用具は支給対象とならないこと、同一の種目の再購入は原則として対象外であること PDF
- 健康長寿ネット(公益財団法人 長寿科学振興財団)「特定福祉用具販売・購入について」:年間10万円の上限、指定を受けた事業者での購入、払い戻しのしくみ ページ
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。実際の置き場所や選ぶ種類は、ご本人の体の状態や部屋の広さによって変わります。