寝室が2階にある家では、退院が近づいたときや、足腰が弱ってきたときに、「階段を毎日上り下りして大丈夫か」「寝室を1階に移したほうがいいのか」と迷うご家族が多いです。
この記事では、階段を安全に上り下りするための基本と、階段まわりの環境の見直し、寝室を1階に移すかどうかを考えるときのポイント、階段昇降機などの選択肢をまとめました。
- 高齢の方の「落ちる」事故が最も多い場所は階段
- 上り下りは手すりにつかまって1段ずつ。上りは良い脚から、下りは悪い脚から
- 階段は、手すり・明るさ・滑り止めと、物を置かないことから見直す
- 寝室を移すかは、夜中のトイレと1日に何回上り下りするかを中心に考える。国の指針でも、寝室とトイレは同じ階にあることが基本とされている
- いす式の階段昇降機は、介護保険の対象外
1. 階段は「落ちる」事故が多い場所
東京消防庁の救急搬送のデータ(2024年)では、高齢の方が「落ちる」事故で救急搬送されたのは8,719人で、そのうち約半数の4,240人が階段での事故でした。階段から落ちると、平らな場所で転ぶよりも大きなけがにつながりやすくなります。
2. 安全な上り下りの基本
- 手すりにつかまる:できるだけ手すりにつかまり、体を手すりに近づけて上り下りします。
- 1段ずつ足をそろえる:不安がある場合は、1段ごとに両足をそろえてから次の段に進みます(1歩ごとに1段ずつ交互に進むより安定します)。
- 上りは良い脚から、下りは悪い脚から:上るときは力の入る脚から上の段に乗せ、下りるときは力の入る脚を上の段に残したまま、もう一方の脚から下ろします。杖を使う場合の順番は、記事「杖の長さの合わせ方と選び方」でまとめています。
- 荷物を持たない:両手がふさがると手すりにつかまれず、足元も見えにくくなります。洗濯物などは、家族が運ぶか、小分けにします。
- 靴下やスリッパで上り下りしない:滑りやすく、脱げて踏み外すことがあります。はだしか、滑りにくい室内履きにします。
- 急がない:電話や来客、トイレに急いで向かうときに踏み外しやすくなります。
手すりを付ける側
片側だけに付ける場合は、転びやすい「下り」のときにつかめる側が基本です。
- 片方の手足に麻痺がある方:下りるときに、麻痺のない側の手でつかめる側
- 脚の骨折や痛みがある方:下りるときに、痛みのある脚と反対側の手でつかめる側
上りと下りでは手すりが体の反対側になるため、両側にあると安心です。国の住宅の設計の指針でも、推奨する水準では両側とされています。高さの目安は、記事「手すりの高さの決め方」でまとめています。
3. 階段まわりの見直し
- 明るさ:段の端が見えるよう、階段全体を明るくします。階段の上と下のどちらでもスイッチを入り切りできると、暗い中を上り下りせずに済みます。夜は足元灯も役立ちます。
- 段の端を見えやすく:段の端に、床と色の違う滑り止めを付けると、段の位置が分かりやすくなります。滑り止めは、段差ができてつまずかないよう、薄いものを選びます。
- 物を置かない:「あとで2階に運ぶ物」を階段の端に置くと、つまずきの原因になります。
- 曲がる部分に注意:途中で曲がる階段(回り階段)は、曲がる部分の段の奥行きが狭く、足を踏み外しやすくなります。国の指針でも、安全上問題がある形とされています。曲がる部分では、段の広い側を通るようにします。
4. 寝室を1階に移すか考えるポイント
国の「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」では、高齢の方の寝室と同じ階にトイレがあることを基本とし、さらに玄関、浴室、食事をする部屋なども同じ階にあることを推奨しています。毎日使う場所が1つの階にまとまっていると、階段を使う回数が減るからです。
寝室を移すかどうかは、次のような点から考えてみるのがおすすめです。
| 考えること | 確かめたいこと |
|---|---|
| 夜中のトイレ | 夜中に何回トイレに起きるか。2階にトイレがない場合、寝ぼけた状態で暗い階段を下りることになる |
| 上り下りの回数 | 食事・トイレ・入浴で、1日に何回上り下りするか。朝は大丈夫でも、疲れた夕方や夜に安全か |
| 見守り | 家族がどこで過ごしているか。1階なら、様子に気づきやすく、呼んだときに届きやすい |
| 1階の部屋 | ベッドを置く広さがあるか、トイレに近いか、冷暖房があるか(記事「介護ベッドの置き場所」) |
| ご本人の気持ち | 慣れた部屋や、自分の物に囲まれた暮らしを続けたいか。家族の生活の音が気になるか |
すぐに移さない場合の工夫
- 日中は1階で過ごす:寝るときだけ2階に上がるようにすると、上り下りの回数を減らせます。
- 夜のトイレだけ2階で済ませる:2階にトイレがない場合、寝室にポータブルトイレを置くと、夜中に階段を下りずに済みます(記事「ポータブルトイレの置き場所と選び方」)。
- 体の状態に合わせて見直す:退院直後は1階で過ごし、体力が戻ってきたら2階に戻る、という方法もあります。
5. 階段昇降機などの選択肢
- いす式の階段昇降機:階段に沿ってレールを取り付け、いすに座ったまま上り下りする機械です。介護保険のレンタルや住宅改修の対象ではないため、費用は自己負担になります。市区町村によっては、独自の助成制度があることがあります。階段の幅や形によっては付けられないこともあり、乗り降りのときの立ち座りや、いすの向きを変える動作が必要です。
- 階段移動用リフト(持ち運べるタイプ):車いすや、専用のいすに乗った方を、介助する人が操作して階段を上り下りする機械です。介護保険の「移動用リフト」として、原則として要介護2以上の方がレンタルできます。重大な事故が起きていることから、福祉用具専門相談員が講習を受けたうえで、実際に家族に使ってもらいながら指導することになっています。
- 階段に手すりを付ける・増やす:片側にしかない手すりを両側にする、途中で途切れている手すりをつなげるなどの工事は、介護保険の住宅改修の対象です。
6. 介護保険の使い方
- 住宅改修:階段の手すりの取り付けや、段の表面を滑りにくい材料に変える工事は、介護保険の住宅改修の対象です(どこまでが対象になるかは、市区町村に確認します)。工事費20万円までが対象で、自己負担は1〜3割です。工事の前に市区町村への申請が必要です。
- 福祉用具のレンタル:階段移動用リフトは原則要介護2以上、ポータブルトイレは購入(特定福祉用具販売)の対象です。
まずは担当のケアマネジャー(要支援の方や、まだ担当がいない方は地域包括支援センター)に相談するところから始めるのがおすすめです(記事「地域包括支援センターと居宅介護支援事業所の違い」)。
関連ツール かんたん間取り図メーカー 1階と2階の間取り図を重ねて描けます。寝室・トイレ・階段の位置を並べて、寝室をどこにするか考えるときに使えます。7. よくある質問
手すりは、上りと下りのどちらに合わせて付けますか?
下りに合わせるのが基本です。階段の事故は下りるときに多く、下りるほうが怖さも大きいためです。
片方の手足に麻痺がある方や、片脚に痛みがある方は、下りるときに支えたい側が決まります。その側に手すりが来るように付けると、上りでは反対の手になりますが、危険の大きい下りを優先します。両側に付けられるなら、そのほうが確実です。
階段に滑り止めを付けたほうがよいですか?
段の先(段鼻)が見分けにくい階段では、滑り止めを兼ねた見やすいテープが役に立ちます。とくに、同じ色の階段や、照明が暗い階段では、段の境目が分からずに踏み外すことがあります。
ただし、厚みのあるものを段の上に貼ると、それ自体につまずくことがあります。段差ができない薄いタイプを選び、端がめくれてきたら早めに貼り替えます。
夜のトイレで階段を下りるのが心配です。
まず、階段の上下に照明のスイッチがあるかを確かめます。片方にしかない場合は、人が近づくと点く足元灯を置くだけでも変わります。
そのうえで、夜だけポータブルトイレを寝室に置く、寝室を1階に移すといった方法も検討できます。夜間は判断力も落ちやすいため、階段を使う回数そのものを減らせないかを考えるのがおすすめです。
階段昇降機は、介護保険で使えますか?
いす式の階段昇降機は、介護保険のレンタル・購入の対象外です。全額が自己負担になります。ただし、市区町村によっては独自の助成制度があるため、担当のケアマネジャーや市区町村の窓口に確認する価値があります。
一方、階段の手すりの取り付けは、介護保険の住宅改修の対象です(工事費20万円までを対象に、自己負担1〜3割)。まず手すりで足りるかを検討してから、次の手段として考えるのが一般的な順番です。
本人が手すりを使ってくれません。
「危ないから使って」と言うほど、本人は「まだ大丈夫」と感じて使わなくなることがあります。使わない理由が、必要ないと思っているのか、位置が合っていなくて使いにくいのか、で対応が変わります。
位置や高さが合っていないだけのことも多いので、まずは一緒に上り下りしてみて、手が自然に届くかを確かめるのがおすすめです。それでも使わない場合は、リハビリの専門職から説明してもらうと、受け入れられることがあります。
2階の部屋を使わないようにしたほうがよいですか?
階段を使う回数が減れば事故の心配は減りますが、本人の生活の中身も一緒に減ってしまうことがあります。2階に趣味の部屋がある、洗濯物を干す場所がある、といった場合、そこへ行かなくなることで、活動量も役割も減ります。
まずは、どうしても必要な用事だけ2階に残し、日常の動線は1階で完結するように整える、という順番で考えるのがおすすめです。本人が大事にしていることを取り上げない形にできないか、リハビリの専門職と一緒に検討できます。
出典・参考にした資料
- 東京消防庁「救急搬送データからみる高齢者の事故」:高齢者の「落ちる」事故の救急搬送人員(8,719人)と、そのうち階段での事故(4,240人)(2024年) Web
- 国土交通省「高齢者が居住する住宅の設計に係る指針」(平成13年国土交通省告示第1301号):寝室と便所を同じ階に置くこと(基本)、玄関・浴室・食事室なども同じ階に置くこと(推奨)、階段の手すり(基本は少なくとも片側、推奨は両側、踏面の先端から700〜900mm)、回り階段を避けること PDF
- 厚生労働省「介護保険における福祉用具の選定の判断基準について」(介護保険最新情報Vol.1296、2024年8月2日):移動用リフト(階段移動用リフトを含む)の範囲、階段移動用リフトの重大事故と、講習を受けた福祉用具専門相談員による指導などの手続き PDF
この記事は一般的な考え方をまとめたものです。階段を使ってよいか、どんな方法で上り下りするかは、ご本人の体の状態や家の造りによって変わります。