この記事は、自宅で親やご家族を介助していて、「介助のたびに腰が痛い」「このまま続けられるか不安」と感じているご家族に向けて書きました。ご本人の体を支えたり動かしたりする作業は、腰に大きな負担がかかります。腰が痛くなるのは、介助が下手だからではありません。ベッドの高さ、動き方、用具、人手を見直すことで、負担を減らせることがあります。
介護の仕事をする人のために示されている腰痛予防の考え方は、家庭での介助にも、そのまま参考になるものが多くあります。この記事では、その考え方をもとに、ご家族が取り入れやすい形でまとめました。
- 腰に負担がかかるのは、抱え上げる、前かがみ・中腰、ひねる、離れて支える、同じ姿勢が続く、急に動くときです。介護の仕事では、人力のみで人を抱え上げることを、原則として行わない考え方があります
- 腰を守る5つの工夫:① ベッドの高さを上げる ② 近づいて、ひねらない ③ 持ち上げず、水平に滑らせる ④ ご本人の力を借りる ⑤ 一人で抱え込まない
- 用具(介護ベッド、スライディングボードなど)は、ご本人の介護保険で借りられるものが多い。サービスで、介助の回数を減らす方法もある
- 腰が痛いときは、原因がさまざまなので、まず整形外科の受診がおすすめです。安静にしていても痛い、足のしびれが広がる、熱があるなどは、早めに受診
1. 介助で腰が痛くなる理由
腰痛の原因として、次のような動きが考えられます。介助の場面には、これらが重なりやすいのです。
- 抱え上げる:人を持ち上げる作業は、腰に大きな負担がかかります。
- 前かがみ・中腰:ベッドが低いと、前かがみの姿勢が続きます。
- ひねる:向きを変えるときに、腰だけをひねると、負担が大きくなります。
- 離れて支える:ご本人から体が離れたまま、手を伸ばして支えると、腰への負担が大きくなります。
- 同じ姿勢が続く:同じ姿勢が長く続くと、腰への負担が増えます。
- 急に、不意に動く:ご本人が急にふらついたときなど、予期しない動きは、腰に急な負担がかかります。
腰の痛みには、ご本人の状態(介助の程度、協力してもらえるか)、福祉用具があるか、作業の姿勢、部屋の広さなど、いろいろな要因が関わります。そのため、「気をつけて、がんばる」だけでは、なかなか減らせません。環境と用具、やり方を、一緒に見直すのがおすすめです。
2. 腰を守る5つの工夫
① ベッドの高さを、前かがみにならない高さまで上げる
ベッドサイドでの介助では、立ったとき、前かがみにならない高さまで、電動でベッドを上げて、介助する人が高さを調整するのが、望ましいと考えられます。目安は、ベッドの横に立って、太ももの上のほうから、腰の上のあたりまでの高さです。着替えやおむつの交換、体の向きを変えるときは、ベッドを上げて、腰を曲げずにすむ高さで行います。
ただし、介助が終わったら、ベッドを低い位置へ戻します。ご本人が、ベッドの端に座ったとき、足の裏が床につく高さが基本だからです(介護ベッドの選び方)。「介助するときは高く、ご本人が動くときは低く」と、使い分けます。
② 近づいて、足を開き、膝を曲げて、ひねらない
- 近づく:体を離したまま、手を伸ばして支えると、腰に負担がかかります。ご本人の近くに立ちます。
- 足を開く:足を前後や左右に開いて、安定させます。
- 膝を曲げる:腰を曲げる代わりに、膝を曲げて、重心を下げます。
- ひねらない:向きを変えるときは、腰をひねらず、足ごと向きを変えます。
前かがみやひねりを避けられないときは、壁に手をつく、ベッドの上に膝をつくなどして、体を支えると、腰への負担を分けられます。ご本人のほうへ、体を正面に向けることも、ひねりを減らす工夫です。
③ 持ち上げず、水平に滑らせる
ご本人を持ち上げるのではなく、滑らせて、水平に動かすと、腰への負担が減ります。スライディングボードやスライディングシートを使って、垂直方向の力を水平方向に変えることで、抱え上げずに移れる場合があります。
④ ご本人の力を借りる
ご本人が、介助する人の手や体、手すりなどをつかむだけでも、介助する人の負担は軽くなります。「さん、はい」と声をかけて、ご本人が力を入れるタイミングと、手伝うタイミングを合わせるだけでも、動きやすくなることがあります。
⑤ 一人で抱え込まない
どうしても人の力で支えざるを得ないときは、人数を増やす方法もありますが、人数が増えても、前かがみや中腰の姿勢では、腰への負担は残ります。家庭では、二人で持ち上げるより、用具や、ご本人の力を使う方法を先に考えるのがおすすめです(乗り移りの介助の、よくある質問に、くわしく書いています)。
介助の回数そのものを減らす、サービスもあります。次の章で紹介します。
3. 場面ごとの、腰への負担と工夫
| 場面 | 腰に負担がかかる理由 | 工夫 |
|---|---|---|
| ベッドの上 (おむつ、着替え) | ベッドが低く、前かがみ・ひねりが続く | ベッドを上げる。ベッドの上に膝をつく。近づく(寝返り・起き上がりの介助) |
| 起き上がり | 腕を引っぱって起こそうとする | 横向きから、ご本人の力を借りる。介助バーを使う(寝返り・起き上がりの介助) |
| 立ち上がり | 前に引き上げようとする | ご本人の前かがみを待ち、声をかけてタイミングを合わせる。手すり、高さを調整する(立ち上がりの介助) |
| 乗り移り | 抱え上げて、ひねる | 足の向きで方向を変える。座ったまま移るなら、スライディングボード。難しいときはリフト(乗り移りの介助) |
| トイレ・入浴 | 狭い場所で、中腰やひねりが続く | 手すり、入浴用いすなど(トイレの手すり、お風呂の手すり)。入浴はサービスを使う方法も |
| 布団で 寝ている方 | 床に近く、強い前かがみになる | ベッドにすると、介助する高さを作れる(布団のままか、ベッドにするか) |
| 床に転んだとき | あわてて抱え起こす | 一人で抱え起こそうとせず、起こす前に確かめることを先に(親が家で転んだら) |
4. 用具とサービスで、介助の負担を減らす
借りられる用具
- 介護ベッド:高さを調整できると、前かがみを減らせます(介護ベッドの選び方)。
- スライディングボード・スライディングマット、介助バー:介護ベッドの付属品として、ベッドとあわせて借りられます。
- 移動用リフト:体をつり上げて、移すための用具です。つり具の部分は、購入になります。
- 手すり(工事をしないもの):ご本人がつかまれる場所が増えると、介助する側の力が減ります。
対象になる要介護度や、借り方は、福祉用具のレンタルと福祉用具の早見表にまとめています。
サービスと相談先
- まず、担当のケアマネジャー(要支援の方は、地域包括支援センター)に、「介助でこちらの腰がつらい」と伝えます。介助する人の困りごとも、相談してよいことです。
- 通所や訪問のサービス:デイサービスや訪問介護、訪問入浴などで、介助の機会を、専門職と分け合えます(訪問リハビリと通所リハビリの違い)。
- 休む場:腰の痛みが強いときや、疲れがたまったときは、ショートステイなどで、介助する人が休む方法もあります(ショートステイとは、レスパイト入院とは)。
- 介助のやり方を、実際に見てもらう:入院中の方は、退院前に、病院のリハビリの担当者に、家での介助の場面を見てもらう方法があります(退院前カンファレンス、家屋調査)。すでに自宅で過ごしている方は、担当のケアマネジャーに相談して、訪問リハビリ(理学療法士などが自宅に来て、実際の場面で、介助のやり方を一緒に考える)を、ケアプランに入れてもらう方法があります(訪問リハビリと通所リハビリの違い)。
5. 自分の腰が痛いとき
まずは、整形外科の受診がおすすめです
腰の痛みには、原因がさまざまあります。介助のせいだと思っていても、背骨の骨折や、神経の病気などが隠れていることもあります。痛みが続くとき、強いときは、まず整形外科を受診するのがおすすめです。次のようなときは、特に早めに相談します。
- 安静にしていても、夜も、痛い(時間や、動きに関係のない痛み)
- 足のしびれや、力の入りにくさが、広がっている
- 熱がある。体重が、理由なく減っている
- 転んだり、ぶつけたりしたあとに、強い痛みが出た
- 癌の治療を受けたことがある、ステロイドを飲んでいる
- 排尿や排便がうまくいかない、足の付け根まわりの感覚がおかしい(すぐに受診)
これらは、「腰痛診療ガイドライン2019」の、重篤な脊椎の病気(腫瘍、感染、骨折など)を疑う危険信号(red flags)の表と、重い神経症状(下肢の麻痺、膀胱直腸障害)、脊椎の外傷(椎体骨折など)の記載をもとにしています。当てはまるときは、介助のことより先に、ご自身の受診を優先するのがおすすめです。
受診のあと、介助を続けるときに
- コルセット(腰痛ベルト):市販のものは、腹圧を高めたり、姿勢を支えたりすることで、腰への負担が軽くなる場合があります。効果には個人差があり、痛みの原因によって合わないこともあるので、受診のときに、使ってよいか、どのようなものがよいかを、相談します。
- 介助の方法や、サービスの利用を、早めに見直します。痛みを我慢して、同じ動きの介助を続けると、悪くなることもあります。
どこに、どう相談すればよいか
- 担当のケアマネジャーがいる:電話などで、「介助でこちらの腰がつらい」と伝えるだけで、かまいません。サービスや用具の見直しを、一緒に考えてもらえます。
- 担当がまだいない、どこに相談すればよいかわからない:お住まいの地域の、地域包括支援センターが、最初の窓口になります(居宅と包括の違い)。
- 介護保険の申請が、まだ:申請の流れは、介護保険の申請の流れにまとめています。
- 休みたい:数日から、泊まって過ごせるショートステイや、入院で休むレスパイト入院があります。
- 費用が気になる:介護サービスの自己負担シミュレーターで、使うサービスから、1か月の自己負担の目安を計算できます。
よくある質問
介助のとき、腰痛ベルト(コルセット)をつけたほうがよいですか
市販のコルセットは、腹圧を高めたり、姿勢を支えたりすることで、腰への負担が軽くなる場合があります。一方で、効果には個人差があり、痛みの原因によっては合わないこともあります。まず整形外科を受診して、使ってよいか、どのようなものがよいかを、相談するのがおすすめです。
介助で、一人で抱え上げてもよいですか
介護の仕事では、人を人力のみで抱え上げることは、腰への負担が大きいため、原則として行わない考え方があります。家庭でも、まず、ご本人の力を借りる方法と、用具(スライディングボードやリフトなど)を考えるのがおすすめです。やむを得ず人の力で支えるときは、人数を増やしても、前かがみや中腰の姿勢では腰への負担が残るので、ご本人に近づき、腰を落として行います。
腰が痛いとき、まず何をすればよいですか
腰の痛みには、原因がさまざまあります。痛みが続くとき、強いときは、まず整形外科の受診がおすすめです。安静にしていても痛い、足のしびれや力の入りにくさが広がる、熱がある、排尿や排便がうまくいかない、といったときは、早めに受診します。受診のあとは、介助の方法やサービスの利用を、早めに見直します。
ベッドを上げると、本人が動きにくくなりませんか
介助するときだけ、ベッドを高く上げ、終わったら低い位置へ戻すのがおすすめです。ご本人が、ベッドの端に座って立つときは、座ったとき足の裏が床につく高さが基本です。高さを変えられる電動の介護ベッドは、介護保険で借りられます(要介護2以上が原則)。
介助する人が腰を痛めたとき、どこに相談すればよいですか
担当のケアマネジャー(要支援の方は地域包括支援センター)に、「介助でこちらの腰がつらい」と伝えられます。介助の方法は、リハビリの担当者に見てもらう方法があります。腰の痛みそのものは、整形外科で相談できます。介助する人が休めるように、ショートステイなどを使う方法もあります。
出典・参考にした資料
- 厚生労働省「職場における腰痛予防対策指針及び解説」(平成25年改訂):介護・看護作業の腰痛予防(人力のみによる人の抱上げは原則行わないこと、福祉用具の利用、立位で前屈にならない高さまで電動で上がるベッド、前屈やひねりを小さくすること、壁に手をつく・膝を着く、スライディングボードやシートで水平方向に移す、対象者の残存機能の活用、やむを得ない場合は2人以上で、腰部保護ベルトの扱い)。2026年10月確認 リンク
- 日本整形外科学会・日本腰痛学会「腰痛診療ガイドライン2019(改訂第2版)」(Minds掲載版):重篤な脊椎疾患の合併を疑うべきred flags(危険信号)、重い神経症状、脊椎の外傷。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省「福祉用具・住宅改修の概要」(令和8年3月):借りられる福祉用具の種目、特殊寝台の付属品、移動用リフトとつり具。2026年10月確認 リンク
この記事は一般的な内容です。腰の痛みの原因や、介助のやり方は、お一人おひとり違います。痛みが続くときは医療機関で、介助のやり方は、リハビリの担当者に、相談するのがおすすめです。