膝の人工関節の手術(人工膝関節置換術)を受けたご本人と、退院が近づいてきたご家族に向けて書きました。「退院したら、何がどこまでできるのか」「正座や階段は、どうなるのか」「どんなときに病院へ相談するのか」という疑問に答えます。入院の期間や、正座などの指導は、病院によって違います。この記事は目安として読み、実際には、手術を受けた病院の説明を優先するのがおすすめです。
- 人工膝関節置換術は、変形性膝関節症などで、痛んだ膝の関節を、金属やポリエチレンの人工の関節に置き換える手術です。変形性膝関節症の治療のうち、ほかの方法で改善しないときに検討される手術の1つです
- 千葉市立青葉病院の案内では、退院は手術のあと2〜3週間ほどです。入院の期間は、病院や手術の方法、ご本人の経過で違います
- 退院後も、定期的な診察が必要です。退院直後は2〜4週間後に受診し、安定したあとは年1回ほどの定期検診で見る例があります
- リハビリで膝を曲げられる角度は、120〜130度ほど(自転車をこぐ程度)とされ、正座は難しいケースが多いとされています。靴下の脱ぎ履きや床からの立ち座りなど、膝を深く曲げる動作にも工夫が要ります
- 痛みや腫れ、熱などで気になることがあれば、様子を見ずに、手術を受けた病院に連絡するのがおすすめです
- 家族は、できることを取り上げず、安全に続けられる環境を整える関わりがおすすめです
1. 人工膝関節置換術とは
膝の関節の、痛んだ部分を取り除いて、金属やポリエチレンの人工の関節に置き換える手術です。いちばん多い対象は、変形性膝関節症です。関節の軟骨がすり減り、骨が変形して、歩くときや立ち座りで強い痛みが出る病気です。関節リウマチなどで、関節が大きく傷んだときにも行われます。
変形性膝関節症では、まず、痛み止めやヒアルロン酸の注射、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える運動、膝を温めるリハビリなどを行います。それでも改善しないときに、手術を検討します。手術には、関節鏡の手術、骨を切って変形を直す手術、人工膝関節置換術などがあります。膝の運動や暮らしの工夫は「変形性膝関節症と家でできる運動」にまとめています。
膝の一部だけを置き換える手術(単顆置換術)もあります。どの手術が合うかは、膝の状態や年齢、活動の程度で、医師が決めます。
2. 入院から退院までの流れ
千葉市立青葉病院の案内では、入院は基本的に手術の前日で、手術の翌日からリハビリが始まり、次のように進みます。
- 手術の翌日:まず車いすに乗ります。順調な方は、平行棒や歩行器を使った歩く練習に進みます。膝を曲げる練習も一緒に行います。
- 数日〜1週間ほど:歩行器から、杖での練習に進みます。早い方は、数日で杖を使って歩けますが、そうでない方もいます。
- 退院に向けて:杖や歩行器での歩き方、階段、トイレや入浴の動作など、家での暮らしに合わせた練習をします。
- 退院:退院は、通常、手術のあと2〜3週間ほどです。歩きが安定していなければ、入院を延ばすことも検討されます。
リハビリの進み方や、退院のときに使う道具(杖・歩行器)は、人によって違います。手術の前の膝の状態、痛みや腫れ、持病の有無で変わります。気になるときは、担当の理学療法士に、「退院までに、どこまでできるようになる予定か」を聞くのがおすすめです。
退院前には、家の様子をリハビリ職が確認する家屋調査が行われることもあります(記事「退院前の家屋調査とは?」)。
3. 退院後の通院とリハビリ
退院したあとも、定期的な診察は必要です。千葉市立青葉病院では、次のように案内しています。
- 退院直後は、2〜4週間後に受診することが多く、その後は、少しずつ間隔があきます。
- 状態が安定してからは、年1回ほどの定期検診で、経過を見ます。
退院後のリハビリが必要かどうかは、退院のときの歩き方や、膝の曲がり・伸びで変わります。同じ病院の案内では、必要に応じて週1〜2回ほどの通院リハビリを行うとしています。何をどのくらい続けるかは、退院のときに、担当に確認しておくのがおすすめです。
退院後に、リハビリを続ける方法(通院、訪問、通所)は「訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)の違いと選び方」にまとめています。
4. 場面ごとの暮らし方:正座・靴下・立ち座り・階段・外出
正座は、難しいケースが多い
リハビリで、膝を曲げられる角度は、120〜130度ほど(自転車をこぐ程度)まで広げることができるとされています。一方、正座は約155度の曲がりが必要で、難しいケースが多いとされています。千葉市立青葉病院は、正座を、避けたほうがよい姿勢(禁忌肢位)として案内しています。
手術の前の膝の動きがよく、膝の一部だけを置き換える手術を受けた場合は、正座ができる方もいます。正座の可否や、床での暮らし方は、担当の医師・理学療法士に確認するのがおすすめです。床に座る暮らしが長い方は、いすやベッドで過ごす工夫も、一緒に考えられます(記事「布団のままか、ベッドにするか」)。
膝を深く曲げる動作は、前もって工夫を決めておく
正座のほかにも、膝を深く曲げる動作は、手術のあとに大変になったり、避けるように言われたりすることがあります。退院の前に、どの動作をどうするか、リハビリ職と一緒に決めておくと、家で困りにくくなります。

- 靴下・ズボン・靴の脱ぎ履き:足先に手が届きにくくなります。いすに座って行う、長い靴べらを使う、靴下をはく補助具(ソックスエイド)を使う、といった工夫があります。ソックスエイドは、やわらかい板をスリッパの形に丸めた道具で、靴下をかぶせ、足を入れて、ひもを引き上げます(記事「着替え(更衣)の介助」)。
- 足の爪切り・足を洗う:前かがみで膝を深く曲げる動作です。家族が手伝う、柄の長いブラシを使うなどの方法があります。
- 床からの立ち座り:布団や、床に座る暮らしでは、毎日くり返す動作になります。ベッドやいすにするか、台に手をついて立つかを考えます。
- 低いいす・ソファ・和式トイレ:座面が低いほど、膝が深く曲がり、立ち上がりに力が要ります。
- 浴槽の出入り・浴槽の底に座る:またぐ動作と、深くしゃがむ動作が重なります。入浴用のいすや手すりで、楽になることがあります(記事「お風呂の手すり」)。
どこまで曲げてよいか、どの方法が合うかは、手術の方法や膝の状態で違います。入院中に、実際の動作を練習しておくのがおすすめです。


立ち座り・トイレ
変形性膝関節症では、洋式トイレを使うことが、日常生活の注意点の1つとされています。手術のあとも、しゃがむ姿勢を避けやすい洋式トイレや、立ち座りの支えになる手すりがあると、安心です(記事「トイレの手すりの高さと位置」)。いすやベッドは、座面が低すぎると、立ち上がりに力が要ります。「立ち上がりの介助」に、高さの考え方をまとめています。
階段・玄関の段差
手術のあとは、階段や段差で、杖や手すりを使うと安心です。「階段の上り下りが不安になったら」と「玄関の上がり框の段差をどうする?」に、手すりや踏み台の考え方があります。上り下りの順番など、膝の手術を受けた方に合った方法は、リハビリ職に実際の動きを見てもらうと確かです。
外出・靴・スポーツ
外出は、歩く距離を少しずつ延ばすのがおすすめです。杖は、長さが合っているかで、歩きやすさが変わります(記事「杖の選び方と使い方」)。靴は、かかとを包む部分が硬めのものが、足元のぶれを減らします(記事「高齢の方の靴の選び方」)。スポーツは、退院直後は難しいかもしれませんが、ウォーキングや軽いジョギング、水泳、ゴルフ、社交ダンスなどは、最終的には特に制限なく行ってよいと、千葉市立青葉病院は案内しています。いつから、何をしてよいかは、主治医に確認するのがおすすめです。
5. 痛み・腫れ・熱:早めに相談したいとき
手術のあとは、手術直後の痛みや、膝の腫れ、熱っぽさが出ることがあります。経過には個人差があり、いつまで続くかも、人によって違います。痛みの強さや、腫れの引き方で、リハビリの進み方も変わります。
- 傷のまわりが赤く腫れる・熱をもつ・膿が出る、発熱が続くとき
- 痛みが、急に強くなったとき
- 転んで膝を強く打ったとき、膝に力が入らなくなったとき
息が苦しい、胸が痛い、というときは、迷わず119番に連絡してください。
退院のときに、病院から連絡先と、連絡の目安が伝えられます。メモして、すぐ見える場所に貼っておくのがおすすめです。
6. 人工関節の耐用年数と、長く使うために
人工関節は、年月とともに、緩みや摩耗が起こることがあり、耐用年数があります。以前は、15〜20年ほどで入れ替えの手術(再置換)が必要になる例が多かったとされます。今は、人工関節の進歩で、より長く使えることが期待されています。それでも、20〜30年たつと、再置換が必要になる可能性はあるとされています。
年齢が若いほど、長く使うことになるため、再置換のリスクが高くなります。年1回ほどの定期検診で、経過を見ていきます。通院が続けやすいように、家族が付き添いや送迎を考えておくと安心です。
7. 家族ができる関わり
- できることは、本人に任せる:手術のあとは、できる動作が日々増えます。先回りして手伝いすぎないのがおすすめです。
- つまずきやすいものを減らす:コード、敷物の端、床の物を片づけます。夜の通り道に、足元灯があると安心です。
- 病院からの説明を、一緒に聞いて、メモする:正座や階段、運動の注意は、退院のときにまとめて説明されます。
- 退院後の通院を、一緒に確認する:次の診察の日と、連絡先を、見える場所に貼ります。

よくある質問
人工膝関節の手術のあと、正座はできますか
リハビリで、膝を曲げられる角度は120〜130度ほど(自転車をこぐ程度)まで広げることができますが、正座(約155度)は難しいケースが多いとされています。千葉市立青葉病院は、正座を避ける姿勢(禁忌肢位)として案内しています。
手術の前の膝の動きがよく、膝の一部だけを置き換える手術(単顆置換術)を受けた場合は、正座ができる方もいます。担当の医師・理学療法士に確認するのがおすすめです。
入院は、どのくらいですか
病院や、手術の方法、ご本人の経過によって違います。千葉市立青葉病院の案内では、退院までは手術のあと通常2〜3週間ほどで、歩きが安定していなければ、入院を延ばすことも検討されます。
退院したあと、リハビリは続けますか
退院のときの歩き方や、膝の曲がり・伸びで変わります。千葉市立青葉病院では、必要に応じて週1〜2回ほどの通院リハビリを行うとしています。退院のときに、どう続けるかを、担当に確認するのがおすすめです。
退院したあとも、通院は必要ですか
必要です。千葉市立青葉病院では、退院直後は2〜4週間後に受診し、その後は少しずつ間隔があき、状態が安定してからは年1回ほどの定期検診で経過を見るとしています。
人工関節には、耐用年数があると聞きました
人工関節は、年月とともに、緩みや摩耗が起こることがあります。以前は15〜20年ほどで入れ替えの手術が必要になる例が多かったとされます。今は、人工関節の進歩で、より長く使えることが期待されています。それでも、20〜30年たつと、入れ替えが必要になる可能性はあるとされています。年1回ほどの定期検診が、経過を見る目安です。
両膝を、同時に手術できますか
可能な場合があります。1回の入院で済み、左右の差が出にくい一方で、体への負担が大きくなる、手術直後のリハビリがやや大変、といった点があります。貧血や持病がある方は、できないこともあります。主治医と相談するのがおすすめです。
出典・参考にした資料
- 千葉市立青葉病院 整形外科「人工膝関節置換術」:対象の病気、入院から退院までの流れ(手術の翌日からリハビリ、歩行器から杖へ)、退院までの期間、退院後の通院(退院直後は2〜4週間後、のち年1回ほどの定期検診)と通院リハビリ、膝の曲がり(120〜130度、正座は約155度で難しい、禁忌肢位)、スポーツ、両側同時手術、耐用年数 Web https://hospital.city.chiba.jp/aoba/department/section/orthopedics/total-knee-arthroplasty/(2026年10月確認)
- 愛媛大学医学部附属病院 人工関節センター「人工関節について」:人工膝関節置換術と単顆置換術の説明、耐用年数の問題(20〜30年後に再置換が必要になる可能性を否定できない) Web https://www.m.ehime-u.ac.jp/hospital/ajic/pages/about_aj/index.html(2026年10月確認)
- 日本整形外科学会「症状・病気をしらべる:変形性膝関節症」:保存療法(痛み止め、ヒアルロン酸注射、大腿四頭筋の運動、温める)、手術療法(関節鏡、骨切り術、人工膝関節置換術)、日常生活の注意(洋式トイレ、正座を避ける) Web https://www.joa.or.jp/public/sick/condition/knee_osteoarthritis.html(2026年10月確認)
この記事は一般的な内容です。入院の期間、退院の時期、正座や階段、スポーツの指導は、病院や、手術の方法、ご本人の状態で違います。手術を受けた病院の説明を優先し、迷うときは、主治医や担当のリハビリ職に確認するのがおすすめです。