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いす・ベッドからの立ち上がりの介助引っぱり上げずに、おじぎの力を使う

監修:やまねこ(運動器認定理学療法士・リハビリテーション科主任)
公開日:2026年9月27日/最終確認日:2026年9月27日

ご家族の介護で「いちばん大変なのは立つとき」と言われることがよくあります。脇の下に手を入れて持ち上げる、腕を引っぱる。そうやって毎回力を使ううちに、介助する側が腰を痛めてしまう。よくある行き詰まり方です。

立ち上がりは、力の大きさより、動く順番で大変さが変わります。上に持ち上げようとする前に、体を前に運ぶ。この順番がそろうだけで、同じ人が同じ力で立てることがあります。

この記事では、立ち上がりの手伝い方と、うまく立てないときに見直す場所を、なぜそうなるのかとあわせてまとめました。ベッドの端に腰かけるところまでは、寝返りと起き上がりの介助に続きます。

この記事のポイント
  • 立ち上がりは「前」へ運んでから「上」へ。まっすぐ上に持ち上げようとすると、お尻が浮いた瞬間に後ろへ倒れる
  • 座る前に足を少し後ろへ引くと、体を前へ運ぶ距離が短くなって楽になる
  • 頭が足の指より少し前に出るくらいまでおじぎをすると、お尻が浮く
  • 大切なのは骨盤が起き上がって前に傾くこと。背中だけを丸めても、体は前へ移らない
  • 手すりは引いてよい。ただし背中を丸めて引くと骨盤が後ろに倒れ、かえって立てなくなる
  • ふだんの座面はかかとまで床につく高さが基本。立ち上がりが大変なときに限って少し上げる
  • 座るときはおじぎをしたまま下りる。背すじを立てたままでは「ドスン」になる
  • 立ち方は人によって違う。病院で練習している方法があれば、それが最優先

1. 引っぱり上げてもうまくいかない理由

脇の下に手を入れて持ち上げる介助には、見直したいポイントが2つあります。

一つは、介助する人の腰への負担です。国の腰痛予防の指針でも、介助で人を抱き上げないことが原則とされ、前かがみやひねりの姿勢を避けることが挙げられています。介護の仕事をする人向けの指針ですが、家庭での介護にも同じ考え方が役に立ちます。

もう一つは、上に引っぱっても、立ち上がりに必要な動きにならないことです。立ち上がりは、体の重さの中心を前へ運びながら上へ移す動作です。上へ引くだけでは、前へ運ぶ部分が抜け落ちます。力は入っているのに、お尻が座面から離れない。そういう状態になります。

そして、引っぱられているあいだは、ご本人も自分の力を出しにくくなります。

2. 「前」へ運んでから「上」へ

立ち上がるときの、体の重さの中心の動き 高齢の女性がいすから立ち上がる3つの姿勢を横に並べた図。1つめは浅く腰かけた姿勢で、体の重さの中心は足で支えている範囲より後ろにある。2つめは深くおじぎをしてお尻が浮いた姿勢で、体の重さの中心が足の上に移っている。3つめは立った姿勢で、体の重さの中心がさらに上へ上がっている。 ① 座っている ② 前へ運ぶ ③ 上へ伸びる 重さの中心は足より後ろ 重さの中心が足の上へ そのまま上へ
赤い印は、体の重さの中心のおおよその位置。座っているうちは足より後ろにあり(①)、おじぎで足の上へ移り(②)、そこから上へ上がります(③)。足元の線は、足で支えている範囲です

まっすぐ上に立とうとすると、後ろへ倒れる

座っているとき、体の重さは、お尻と足の両方で支えられています。ところがお尻が座面から離れた瞬間、支える場所は足だけになります。支えている範囲が、急に前のほうへ狭くなるということです。

このとき、体の重さの中心が元の位置に残っていると、後ろへ倒れます。体の重さの中心を前へ運びながら上へ移せなければ、立ち上がることはできません。力の問題ではなく、順番の問題です。

おじぎが、前へ運ぶ動き

その「前へ運ぶ」を行うのが、おじぎです。目安は、頭が足の指より少し前に出るくらい。思っているより深く倒します。

ただ、同じおじぎでも中身が違います。大切なのは、骨盤が起き上がって、前に傾いているかです。

座っているとき、骨盤(お尻の下にある大きな骨)は後ろに倒れて寝た状態になりがちです。この骨盤が起き上がって、脚の付け根を軸にして前へ傾いていくと、上半身がひとかたまりのまま前へ移り、体の重さの中心も一緒に前へ移ります。

反対に、骨盤が倒れたまま背中だけを丸めると、頭は前に出ていても、体の重さの中心は前へ移りません。見た目はおじぎをしているのに、お尻が浮かない。これが、立てないときにいちばん多い形です。

前かがみの2つの形 いすに腰かけて前かがみになった高齢の女性を2つ並べた図。左は腰から上がひとかたまりのまま前へ倒れ、背中から腰にかけての線がまっすぐ通っている。右は腰が後ろに倒れたまま、背中だけが丸い弧を描いている。 腰から上がまっすぐ 背中だけが丸い
同じ前かがみでも、左は脚の付け根から倒れていて、背中から腰の線がまっすぐ通っています。右は腰が後ろに倒れたまま背中だけが丸まっていて、頭は前に出ても体の重さの中心は前へ移りません

手伝うときは、頭の位置ではなく腰から上が一枚の板のように前へ倒れているかを見ます。背中が丸まっているなら、「胸を張ったまま、おへそを前に突き出すように」と声をかけると、骨盤から傾きやすくなります。

ここまで来ると、太ももの前や後ろ、お尻の筋肉が、体重を受け止める準備に入ります。そこから膝と股関節を伸ばすと、体が上へ持ち上がります。前へ運ぶのが先、上へ伸びるのが後。この順番です。

ここで紹介するのは、一般的な考え方の一つです。合う方法はご本人の体の状態によって変わります。担当のリハビリの専門職から方法を教わっている場合は、この記事の内容より、その指導を何よりも優先します。手術のあとで、体重をかけてよい量や動かしてよい向きが決められていることもあります。

3. 立ち上がりを手伝う3つの手順

手順1 足を少し後ろへ引く

立つ前に、足の位置を見ます。足が前に投げ出されていると、体を前へ運ぶ距離がそのぶん長くなります。足を後ろへ引いておくと、前へ運ぶ距離が短くてすむので、立ち上がりが楽になります。

手伝うときは、こちらで動かす前に「足を少し手前に引いてみましょう」と声をかけます。ご自分で引ける方なら、そのほうが次の動きにつながります。

足の裏は、かかとまで床につけます。かかとが浮いてしまうときは、お尻を座面の少し前のほうへずらしてから立ちます。浅く腰かけるほど足が引けるようになり、かかとも床につきやすくなります。

手順2 おじぎをする

次に、体を前に倒します。手すりをつかむか、座面や自分の太ももに手をついて、頭が足の指より少し前に出るところまで倒します。

手伝うときは、上へ引き上げません。ご本人が前へ傾く動きに合わせて、「せーの」と声をかけ、その向きへ軽く添えます。タイミングを合わせることが、力を足すことより効きます。

介助する人は、ご本人の正面に立つと、こちらが後ろへ引かれる形になります。少し斜め前に立ち、ご本人が頭を近づけていく先になるほうが、動きを邪魔しません。

手順3 お尻が浮いたら、上へ伸びる

おじぎが足りていれば、お尻は自然に浮きます。そこから膝と股関節を伸ばして、体を上へ。ここはご本人の足の力が出やすい場面なので、待つ時間をつくります。

手伝う側は、持ち上げるのではなく、横からそっと支えて、ふらつきに備えます。立ったあと、すぐに歩き出さず、数秒その場で止まる時間をとると、めまいやふらつきに気づけます。

4. うまく立てないときに見直す5か所

お尻が浮かないとき、原因は筋力だけではありません。よくあるのは次の5つです。

1 骨盤が倒れたまま、背中だけを丸めている

いちばん多い原因です。頭は前に出ているのに、骨盤が後ろへ倒れたままなので、体の重さの中心が前へ移りません。おじぎの量ではなく、おじぎの形の問題です。

見るところは、腰から上がひとかたまりで前へ倒れているかどうかです。背中が丸まっているようなら、「胸を張ったまま、おへそを前に突き出すように」と声をかけます。それでも骨盤が動かないときは、腰の丸まりや股関節の硬さが関係していることがあるので、リハビリ職に見てもらうのが確実です。

2 手すりを引き上げる道具として使っている

手すりをつかんで引くこと自体は、立ち上がりを楽にする方法です。問題になるのは引き方です。腕の力だけで引こうとすると背中が丸まり、骨盤が後ろへ倒れます。すると、上半身は前に出ているのに、体の重さの中心は前へ移りません。

手すりは、体を引き上げる道具ではなく、おじぎをする方向へ体を導く手がかりとして使うと、うまくいきます。手すりの位置については、手すりの高さの決め方もあわせてご覧ください。

3 座面が低い

座面が低いと、骨盤が後ろへ倒れた姿勢になりやすく、体の重さの中心が後ろに残ります。持ち上げる距離も長くなります。低いソファや和式の座いすから立てないのは、この組み合わせのためです。

4 足が前に出たままになっている

立つ直前の足の位置です。足が前に投げ出されたままだと、体を前へ運ぶ距離がそのぶん長くなり、同じおじぎでは届きません。見れば分かり、その場で直せるので、最初に確かめたいところです。

目安は、ひざ頭より足首が後ろにくるくらいです。ご自分で引ける方には「足を少し手前に引いてみましょう」と声をかけます。かかとが浮いてしまうときは、お尻を座面の少し前へずらしてから引くと、足が収まりやすくなります。

引こうとしても足が後ろへ動かないときは、足首の硬さが関係していることがあります。ここはご家族で対処しにくい部分なので、リハビリ職に見てもらうのが確実です。

5 脚を伸ばすのが早すぎる

おじぎがまだ途中なのに、脚を伸ばし始めてしまう形です。立ち上がろうとする気持ちが強いほど起こります。

体がまだ前へ運ばれていないうちに脚を伸ばすと、その力は上ではなく後ろへ向かいます。せっかく前へ傾けた体が、押し戻されてしまうわけです。このとき太ももの前側に力がこもるので、「力が足りない」のではなく、力を出す場所は合っているのに出すタイミングが早い状態です。

直し方は、動きを2つに切って伝えることです。「まず、おじぎだけ」「お尻が浮いてから、伸ばしましょう」と、間に一拍おきます。掛け声も、立つ合図としてではなく、おじぎの合図として使うと、順番が入れ替わりにくくなります。

理学療法士の視点から

訪問していて感じるのは、立ち上がりを「上に伸び上がること」だと思っている方が、ご本人にもご家族にも多いということです。声かけは「はい、立って」「よいしょ」。介助の手も、自然と上へ向かいます。ご本人も、上に伸びようとして脚に力を入れます。

ところが体は、上へ向かう力だけでは浮きません。前に出てから、上へ。この順番を踏まないと、どれだけ力を入れても、その力は後ろへ流れてしまいます。「立って」という声かけと上へ向かう手が、前へ運ぶ段階をまるごと飛ばしてしまっているわけです。力が足りないのではなく、順番が抜けている状態です。

そこで私は、立ち上がりを2つの動作として扱います。最初の号令は「立ちましょう」ではなく、「まず、おじぎをしましょう」。体が前へ出てきたのを確かめてから、「そのまま、上へ」と続けます。ご家族にお伝えするときも、理屈を説明するより、この声かけを変えてもらうほうが早いと感じています。かける言葉が「立って」から「おじぎ」に変わると、添える手の位置も、待つ間も、自然と変わってくるためです。

もう一つ気になるのが、転ばせないために、ご家族が先回りしてすべてを引き受けてしまうことです。心配からのことですが、立つ機会そのものが減っていきます。洗濯物をたたむ、テーブルを拭く、お茶を入れる。時間がかかっても、その人が続けてきたことを生活の中に残しておくほうが、結果として動き続けられます。危ないと感じる場面があるなら、やめてもらうのではなく、手すりや座面の高さでその場面を安全にできないか、担当のリハビリ職に相談してみてください。

5. 座るときの「ドスン」を防ぐ

立つことばかりに目が行きますが、ご家族が怖い思いをするのは、むしろ座るときです。後ろへ倒れ込むようにドスンと座ってしまう。お尻や背中を打つことがあり、勢いがつくといすごと倒れることもあります。

原因は、体の重さを後ろへ移すタイミングが早すぎることです。座ろうとした瞬間に、体重を一気に後ろへ預けてしまうと、そのまま落ちます。

ゆっくり座るには、おじぎをしたまま下りる必要があります。背すじを立てたまま、まっすぐ後ろの座面に座ることはできません。体を前に傾けて前後のつり合いを取りながら、膝を曲げて下りていく形です。立ち上がりの逆をたどる、と考えると分かりやすくなります。

手伝うときは、座面に足が当たる位置まで後ろに下がってもらってから、「おじぎをしたまま、ゆっくり」と声をかけます。手すりや座面に手をついてもらうと、下りる速さを自分で調節しやすくなります。車いすへ座り直す場面は、ベッドから車いすへの乗り移り介助で詳しく扱っています。

6. 体の状態による違い

片麻痺の方の場合

麻痺のある側の足は、体重がかかったときに足首の裏側が突っ張って、すねが前に傾きにくくなることがあります。すると膝が前に出ず、体が後ろへ押し戻されて、お尻が浮きにくくなります。

立てない原因が、足の力そのものではなく足首の突っ張りにある場合、力を込めて何度もやり直しても変わりません。立ち方の工夫や足首の状態については、実際の動きを担当のリハビリ職に見てもらうのが確実です。左右のどちらにどう力を配分するかは、体の状態によって変わるため、ご家族の判断で決めない部分です。

骨折や脚の痛みがある方の場合

痛みがあると、その脚をかばう姿勢になります。痛いほうの脚を前に投げ出したり、おじぎを怖がって上体を後ろに残したりすると、体の重さの中心が後ろに残り、かえって立ち上がりが大変になります。股関節や膝が曲がりにくい場合も、前へ倒せる量が小さくなるため、同じことが起こります。

手術のあとは、体重をかけてよい量が決められていることがあります。「痛くないほうの脚に体重をかける」といった配分も、ご家族の判断ではなく、主治医やリハビリ職の指示に従う部分です。迷ったら、次の受診やリハビリのときに、実際に立つところを見てもらって確かめるのがおすすめです。股関節の骨折のあとの流れは、足の付け根の骨折のあとのリハビリにまとめています。

7. 道具と介護保険

座面の高さを整える

ふだん座るいすやベッドの高さは、足の裏がかかとまで床につく高さが基本です。座った姿勢が安定し、足で床を押せるためです。

そのうえで、立ち上がりがどうしても大変なときに限って、座面を少し上げる方法があります。座面が高いほど、体を持ち上げる距離が短くてすむためです。ただし高すぎると、座ったときに足の裏が床から離れて姿勢が不安定になります。「高いほどよい」ではなく、立てる範囲でいちばん低いところを探す形になります。介護ベッドなら、この調節がその場でできます。

手すりと福祉用具

立ち上がる場所に手すりがあると、ご本人が自分の腕を使えます。取り付け位置は、立つ動作を見てから決める部分なので、福祉用具専門相談員やリハビリ職に実際の場面を見てもらうのが確実です。トイレでの立ち座りはトイレの手すりの付け方、夜間の用具はポータブルトイレの選び方もあわせてご覧ください。

介護保険では、手すりの取り付けが住宅改修、置くだけの手すりや介護ベッド(特殊寝台)がレンタルの対象です。自己負担は1〜3割です。どの種目が使えるかは要介護度によって変わります。費用の目安は住宅改修と福祉用具の費用で確かめられます。

床からの立ち上がりが大変になっている場合は、ベッドにするかどうかの判断そのものが必要になることがあります(布団のままか、ベッドにするか)。

8. よくある質問

何度やっても立てません。力が弱くなったのでしょうか

筋力のこともありますが、動きの順番でつまずいていることも少なくありません。足が前に出たままになっていないか、おじぎが浅くなっていないか、背中を丸めて手すりを引いていないか。この3つを見るだけで変わることがあります。
見直しても変わらないときは、立つところを担当のリハビリ職に見てもらうと、どこで止まっているかがはっきりします。

立ち上がりの介助で、こちらの腰が痛くなります

抱え上げる形になっているなら、方法か道具を見直す時期です。座面を少し高くする、手すりを付ける、介護ベッドの高さを使う。ご本人が自分で出せる力が増えるほど、こちらにかかる力は減ります。
それでも一人で抱え上げなければ動かせない状態が続くなら、がまんして続けるより、担当のケアマネジャーに「介助がつらい」と具体的な場面で伝えるほうが、結果として長く続けられます。

いすは高いほうが立ち上がりやすいですか

立ち上がりだけを見れば、高いほうが楽になります。持ち上げる距離が短くなるためです。
ただし高すぎると、座ったときに足の裏が床から離れて、座った姿勢が不安定になります。ふだんはかかとまで床につく高さにしておき、立ち上がりが大変なときに少し上げる、という使い分けがおすすめです。

ドスンと座ってしまいます

体重を後ろへ預けるのが早すぎることが多いです。座る直前に背すじを立ててしまうと、そのまま落ちる形になります。
おじぎをしたまま膝を曲げて下りるようにすると、速さを調節できます。手すりか座面に手をついてもらうと、さらに調節しやすくなります。ひじ掛けのあるいすに変えるだけで落ち着くこともあります。

病院で教わった立ち方と、この記事の手順が違うようです

病院で教わった方法を優先します。立ち方は体の状態によって変わり、手術のあとで動かしてよい向きや、かけてよい体重が決められていることもあります。
この記事は、教わる機会がなかった方のための一般的な流れとして読んでいただければと思います。

出典・参考にした資料

この記事は一般的な考え方をまとめたものです。合う方法は体の状態によって変わるため、担当のリハビリの専門職に、実際の場面を見てもらったうえで決めるのがおすすめです。