この記事は、医療機関で変形性股関節症と言われた方と、そのご家族に向けて書きました。診てもらったあと、家での毎日をどう過ごせばよいか、迷う方は少なくありません。
内容は、家でできる筋トレとストレッチ、痛みがあるときの運動の始め方、杖や歩き方、靴下や立ち座りなどの暮らしの工夫が中心です。
脚の付け根の痛みの原因は、変形性股関節症のほかにもあります。まだ受診していない方や、原因がはっきりしていない方は、先に整形外科で診てもらうのがおすすめです。受診の目安は、次の章にまとめました。
運動の種類や強さは、股関節の状態によって人それぞれです。ご本人に合う方法は、医師やリハビリ専門職に確認するのがおすすめです。人工股関節の手術などを受けた方は、担当の医師やリハビリ専門職の説明が最優先です。
- 脚の付け根の痛みの原因は変形性股関節症のほかにもある。まだ受診していないときは、先に整形外科で診てもらう
- 日本では、生まれつきの股関節のかたち(寛骨臼形成不全)や、子どものころの病気の後遺症が原因の「二次性」が大半とされる。女性に多く、若い方にも出る
- 痛いからと動かさないでいると、筋肉が衰えやすい。運動は、短い期間・中くらいの期間では、痛みをやわらげ、動きを良くするのに役立つとされる(長い目で見て進行を防げるかは、はっきりしていない)
- 家での運動の基本は、お尻と太ももなどの筋トレと、股関節まわりのストレッチ。息を止めず、ゆっくり。痛みや疲れを感じたら、すぐ中止する
- 歩くときは、杖を痛い側と反対の手で持つ方法がある。水中を歩く運動も、よい方法とされる(平泳ぎを除く)
- 家族の役割は、運動をさせることではなく、続けやすい雰囲気と、本人が続けたいことを続けられる工夫
1. まだ受診していないときは、整形外科へ
脚の付け根の痛みは、変形性股関節症のほかにも、大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、股関節の骨折など、いくつかの病気で起こるとされています。原因は、診察やX線(レントゲン)検査を受けて分かります。まずは整形外科を受診するのがおすすめです。どこに行くか迷うときは、かかりつけの医師に相談してもかまいません。
すでに変形性股関節症と言われている方は、3. 家でできる筋トレとストレッチからお読みいただけます。
とくに、次のような脚の付け根の痛みがあるときは、整形外科で相談するのがおすすめです。
- 動きはじめや歩きはじめに、脚の付け根が痛む
- 運動のあとに、脚の付け根やお尻の横が痛い
- 寝返りを打つと、脚の付け根が痛む
変形性股関節症では、痛みのほかに、次のようなことも見られるとされています。ほかの原因でも起こることなので、これだけで病気が決まるものではありませんが、痛みと重なるときは、受診のときに伝えると参考になります。
- 歩くとき、体が左右に揺れる
- ズボンやスカートの丈が、左右で合わない(脚の長さの差が関わることがあります)
- 段差を上がりにくい、靴下がはきにくい、足の爪が切りにくい
- 小さいころから、あぐらがかけない
受診のときは、ご本人から次のことを聞いておくと、メモになります。メモは「あるとよい」という程度のものです。
- いつ頃から痛いか
- どんなときに痛むか(立ち上がるとき、歩きはじめ、寝返り、靴下をはくとき、など)
- 右と左の、どちらか。どのあたりか(脚の付け根、お尻の横、太もも、膝)
- 転んだりぶつけたりしたけがのあとに、脚の付け根が強く痛い、脚を動かせない、痛くて体重をかけられない(骨折の可能性があります。足の付け根の骨折のあとのリハビリ)
- 発熱があり、脚の付け根が激しく痛む、脚を動かせない
- 安静にしていても痛い、夜寝ていても痛む(変形性股関節症が進んできたときにみられる症状とされています)
この目安は、安全のためのものです。当てはまるかどうか迷う場合も、ご家族の判断で原因を決めず、医療機関に相談するのがおすすめです。
2. 変形性股関節症とは
股関節は、骨盤のくぼみ(寛骨臼)に、太ももの骨の丸い先(大腿骨頭)がはまり込んでできた関節です。この関節の軟骨が少しずつ減ると、関節に炎症が起きて、痛みが出たり、動きが制限されたりします。これが変形性股関節症です。「痛み」や「歩きにくさ」など、暮らしで困ることが多くなる病気とされています。
日本では、「二次性」が多い
変形性股関節症には、原因がはっきりしない加齢の変化や体重の増加などによる「一次性」と、生まれつきの形や病気のあとに起こる「二次性」があります。日本では、子どものころの発育性股関節形成不全(先天性股関節脱臼)の後遺症や、寛骨臼形成不全(骨盤側のくぼみが浅い)が原因の二次性が大半とされています。かかる人は女性に多く、膝の変形性関節症に比べて、比較的若い年齢でも症状が出ることがあります。
最近は高齢の方が増えたこともあり、はっきりした原因の病気がなくても、年齢とともに起こる方もいるとされています。ご本人やご家族の、日ごろの過ごし方が悪かったから、というものではありません。
症状の進み方
| 時期 | 主な症状 |
|---|---|
| 前期〜初期 | 立ち上がりや歩きはじめに、脚の付け根が痛む。長く立ったり歩いたりすると痛む。足の爪が切りにくい、靴下がはきにくい |
| 進行期 | 痛みが強くなる。立ち座りや階段、車やバスの乗り降りに、手すりが必要になる |
| 末期 | 安静にしていても痛い。関節の変形が目立ち、股関節が伸びにくく、歩くのが難しくなる |
これは進み方の目安で、全員がこのとおりに進むわけではありません。診断は、医療機関での問診と診察、X線(レントゲン)検査で行われます。必要に応じて、CTやMRIの検査が行われることもあります。
運動に期待できること
痛いからと股関節を動かさないでいると、筋肉が衰えて、さらに動きにくくなりやすいとされています。運動(筋トレ、ストレッチ、水中での運動など)は、短い期間や中くらいの期間では、痛みをやわらげ、体の動きを良くするのに役立つとされています。一方で、長い目で見て病気の進行を防げるかどうかは、はっきりしていません。運動だけで足りない場合は、薬や装具、手術などが検討されます。
「年のせいだから」と、痛みをがまんしなくてよいものです。痛みがあるときは、医療機関で相談してみるのがおすすめです。
3. 家でできる筋トレとストレッチ
変形性股関節症の運動の基本は、股関節を支える、お尻や太ももなどの筋肉を鍛える筋トレと、固くなった筋肉を伸ばして、股関節の動きを保つストレッチです。とくに、お尻の筋肉(大殿筋)と、お尻の横の筋肉(中殿筋)は、股関節を守る大切な筋肉とされています。
- 痛みや疲労感を感じたら、すぐに中止する
- 運動は、痛みを引き起こすことがあるので、慎重に始めて、少しずつ強めていくのがポイントとされている
- 動きが悪い方や、痛みが強い方は、先に理学療法士や医師に相談する
- 人工股関節などの手術を受けた方は、担当の医師・理学療法士の指示が最優先
筋トレとストレッチ、共通の注意点
痛みの有無にかかわらず、運動のときに気をつけたい、一般的な注意点です。
筋トレのとき
- 息をこらえない:血圧の急激な上昇を抑えるために、息をこらえないよう注意が必要とされています。
- 反動をつけず、ゆっくり動かす:ゆっくり動かすと、軽めの負荷でも効果が得られ、関節や筋肉への負担が小さいとされています。
- はじめは軽く:日常生活で使う程度の負荷を繰り返し、慣れてきたら、少しずつ強めていきます。
- 休む日もつくる:週に2〜3回が目安とされています。やりすぎは、かえって逆効果になることがあります。
- 人によって内容が違う:回数や強さは、体の状態に合わせて決めるものです。迷うときは、運動指導の専門家(理学療法士など)に相談するのがおすすめです。
ストレッチのとき
- 痛くなく、気持ちよい程度に伸ばす:痛いほど伸ばすと、筋肉を守ろうとする反射(伸張反射)がはたらき、かえって筋肉が硬くなって、効果が下がるとされています。
- 反動や勢いをつけず、ゆっくり伸ばして保つ:自分で行う、伸ばして保つ形(静的ストレッチ)が、安全性の面から勧められています。
- 時間をかける:一般に、20秒以上かけることが目安とされています。この記事では20〜30秒を目安にします。股関節が痛みやすい方は、5〜10秒の短めから始めて、慣れたら少しずつ長くする方法もあります。
- 伸ばす筋肉を意識する
- 呼吸を止めない:ゆっくりと深い呼吸は、緊張をやわらげるとされています。息を吐きながら伸ばすと、行いやすくなります。
- 痛みのない側も、同じように行う
痛みが強いときは
痛みが強い日や、動かすと痛みが強くなる運動は、無理に続けません。痛みの出ない範囲の動きにしぼる、回数を減らす、休む、といった調整ができます。どの運動をどこまで行うかは、股関節の状態で人それぞれなので、理学療法士や医師に相談できます。
ベッドの上で過ごす時間が長い方も、寝たまま行える運動があります(このあとの、お尻を持ち上げる運動、横向きで脚を持ち上げる運動など)。できる形があるか、専門職に相談できます。
股関節を守る筋トレ
筋トレは、太ももの前、ふくらはぎ、お尻、お尻の横、脚全体の5か所が基本です。回数の目安は、1セット15〜20回、2〜3セットです。強さや回数は、痛みや疲れの具合で変わるので、専門職に決めてもらうのがおすすめです。
| 鍛える場所 | 動き方 | 保つ時間 |
|---|---|---|
| 太ももの前 | 仰向けで片膝を立て、反対の膝を伸ばしたまま、床から持ち上げる | 5〜10秒 |
| ふくらはぎ | 腰幅に脚を開いて立ち、テーブルにつかまって、かかとを持ち上げてつま先立ちになる | 2〜3秒 |
| お尻 | 仰向けで両膝を立て、お尻に力を入れて持ち上げる | 5〜10秒 |
| お尻の横 | 横向きに寝て、床側の膝を曲げ、上の脚を膝を伸ばしたまま持ち上げる | 5〜10秒 |
| 脚全体 | テーブルなどにつかまり、膝が前に出ないように、腰をおろして戻る(スクワット) | 5〜6秒かけておろし、5〜6秒かけて戻る |
股関節の動きを保つストレッチ
ストレッチは、股関節と膝を曲げる、股関節の前、お尻、ふくらはぎ、太ももの内側の5つが基本です。時間の目安は、20〜30秒です。図に赤い部分があるものは、そこが伸びるところです。
- 痛みや辛さを感じる強さで伸ばすと、逆効果とされています。
- 痛みのない側も、同じようにストレッチします。
- 股関節と膝を曲げるストレッチは、お風呂の中で温まりながら行うと、行いやすくなります。
- 股関節の前のストレッチは、バランスが悪いときは、いすなどにつかまって行います。
続けるための工夫
運動は、「やらなければいけない課題」にすると、続きにくいものです。ご本人の毎日の流れ(お風呂、朝の身じたく、好きな番組の時間など)に合わせて、組み込める形を考えるのがおすすめです。
股関節の痛みの運動は、基本的に、筋トレとストレッチです。どの運動をどこまで行うかは、股関節の状態や痛み方で人それぞれなので、実際の動きを見てもらうのがおすすめです。
現場でよく出会うのは、痛みをかばって歩く量や出かける機会が、少しずつ減っていく方です。ご家族が「痛いなら休んでいて」と先回りして用事を引き受けると、ご本人の役割が減ってしまうことがあります。続けたいことを聞いて、どうすれば安全に続けられるかを、リハビリ専門職と一緒に考えるのがおすすめです。
もう一つ多いのが、杖を勧められても、「まだ使いたくない」と感じる方です。杖は、股関節にかかる力を減らして、痛みをやわらげるのに役立つとされています。気持ちの面で迷うときは、その気持ちも含めて、リハビリ専門職に話してみてよいものです。
4. 暮らしの工夫(場面別)
歩くときには、体重の3〜5倍の負荷が股関節にかかるといわれます。ご本人が家での役割や好きなことを続けられるように、場面ごとに、ご家族と一緒に考えられる工夫をまとめました。「長く歩かない」「階段を避ける」といった注意が挙げられることもありますが、やめてしまうのではなく、休みを入れる、杖や手すりを使う、道具や高さを変えるなど、続けられる形を探すのがおすすめです。
歩くとき・外出
痛みがあるときは、杖を使う方法があります。杖は、股関節にかかる力を減らし、痛みをやわらげるのに役立つとされています。持つ手は、一般に、痛みがある股関節と反対の手です。杖を、痛い側と反対の手で軽くつくと、お尻の横の筋肉(中殿筋)の働きが減ったという報告があります。
杖の長さは、まっすぐ立って、握り手が手首の高さになるのが目安です。杖を握ったとき、肘が少し曲がるくらいになります。くわしくは杖の長さの合わせ方と選び方、歩行器は歩行器の種類と選び方、靴は高齢の方の靴の選び方にまとめています。
- ゆっくり、疲れないペースで歩く:早足で歩くと、股関節に負担がかかるとされています。
- 休みを入れる:長く歩くと負担が増えるので、10〜15分ほど歩いたら、一度休むという目安もあります。
- 痛みが気になる日:無理をせず、短い距離でも、車などで移動する方法があります。
- 水中を歩く:プールでの水中歩行は、運動として有効とされています。浮力で股関節への負担が軽くなります。水中歩行や水泳を、週に2〜3回行えると理想的とされています。ただし、平泳ぎは股関節を大きく開くので、避けるよう勧められています。
立ち座り・床の生活・トイレ
正座や、和式のトイレは、股関節に大きな負担がかかるとされています。床の暮らしが長い方は、いす、ベッド、洋式トイレを取り入れる方法があります。立ち座りがつらくなってきたときは、手すりやいすの高さを見直すのも一つの方法です。高さは、ご本人の体格や痛みで変わるので、立ち上がりの様子を、リハビリ専門職に見てもらって決めると安心です。
台所仕事は、高めのいすに腰かけて行う方法もあります。どこまで暮らしを変えるかは、ご本人の暮らしや気持ちを大切に、専門職に相談して決めるのがおすすめです。
場面ごとの、くわしい工夫は、次の記事にまとめています。
- いす・ベッドからの立ち上がりの介助:立つときの支え方と、手の置き場所
- 手すりの高さの決め方:場所ごとの高さの目安
- トイレの手すりの付け方:便座からの立ち座りがつらいとき
- ポータブルトイレの置き場所と選び方:夜のトイレが間に合わないとき
- お風呂の手すりと入浴用品の選び方:浴槽のまたぎと、洗い場の立ち座り
靴下・足の爪・着替え
靴下がはきにくい、足の爪が切りにくいのは、変形性股関節症で、股関節が曲がりにくくなったときに出やすい困りごとです。ご家族が代わりにしてあげる前に、道具や姿勢の工夫で、ご本人ができる形を探すのがおすすめです。たとえば、靴下をはく道具(ソックスエイド)などがあります。使い方は、理学療法士や作業療法士に教わると安心です。
人工股関節の手術を受けた方は、足元に手を伸ばす動作に、気をつける姿勢が決められていることがあります(6. 人工股関節の手術を受けたあとは)。
階段・車やバスの乗り降り
変形性股関節症が進むと、階段や、車・バスの乗り降りに、手すりが必要になるとされています。手すりがあると、体を支えやすくなります。くわしくは、階段の上り下りが不安になったらと、玄関の上がり框の段差をどうする?をご覧ください。家の工事や福祉用具の費用を調べるときは、下のツールも使えます。
関連ツール 住宅改修と福祉用具の費用 手すりや段差の工事、福祉用具の、自己負担の目安がわかります。体重について
体重が増えると、股関節の負担が大きくなるとされています。体重が気になる方は、体重を増やさないようにすることが勧められています。ただし、体重のことは、ご本人が気にしていることも多く、ご家族から指摘すると、気持ちを重くしてしまうことがあります。減らし方を含めて、医師や専門職に相談してみるのがおすすめです。
5. 受診したあとに受けられること
受診したあとは、診察の結果とご本人の状態に合わせた治療が行われます。変形性股関節症の治療は、大きく保存療法と手術療法に分けられるとされています。
保存療法
- 薬:痛みを抑えて、関節の動きを良くするための、貼り薬や痛み止めがあります。
- 温める治療:体を温めて、股関節のまわりの血のめぐりを良くし、痛みをやわらげます。
- 理学療法:運動療法、理学療法士が手で行う徒手療法、温めたり電気を使ったりする物理療法があります。運動療法では、お尻の横の筋肉(中殿筋)など、股関節のまわりの筋肉を鍛えることが大切とされています。
- 装具・靴の調整:不安定になった股関節を支える装具(ヒップ用スプリント)や、左右の脚の長さの差や衝撃に合わせて、靴のかかとを高くしたり、インソールを作ったりする方法があります。
手術療法
保存療法で症状がとれない場合に、手術が検討されます。初期のうちは、ご自身の骨を生かして行う「寛骨臼回転骨切り術」などが、関節の変形が進んでいる場合は、「人工股関節置換術」が検討されることがあります。そのほか、関節鏡で股関節の中を処理する手術もあります。どの方法がよいかは、股関節の状態やご本人の希望、暮らし方によって違います。医師とよく相談して決めていきます。
外来・訪問・通所のリハビリの違いは訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)の違いと選び方、外来リハビリの期限については外来リハビリの期限を過ぎたらどうなる?にまとめています。
6. 人工股関節の手術を受けたあとは
人工股関節置換術を受けた方の、暮らしでの一般的な注意点です。手術の方法や時期によって違うので、担当の医師・理学療法士の説明が最優先です。
- 定期的に通院する:レントゲンや血液検査を受けます。CTやMRIの検査は、医療機関で相談します。
- 脱臼を防ぐ:手術の方法によって、脱臼しやすい姿勢が違います。日常生活では、脱臼しやすい姿勢や動作に気をつけます。
- 退院後も、脚の筋力を保つ運動を続ける:歩けるようになっても、脚の筋力の回復がまだ十分でない方もいます。
- 体重が増えすぎないようにする:人工関節への負担が増えるためです。
脱臼しやすい姿勢
人工股関節では、関節が外れる(脱臼)のを防ぐため、動かしてよい向きが決められていることがあります。どの向きに気をつけるかは、手術で関節に入った方向(後ろから・前から・横から)によって変わります。入院中に、脱臼しやすい姿勢を教わっておくと、手術のあとの脱臼が減ると報告されています。
後ろから入る手術(後方進入)のあとは、股関節を深く曲げる、脚を内側に寄せる、内側にひねる、この組み合わせに気をつけます。暮らしの中では、低いいすやソファに深く座る、座ったまま前かがみで靴下をはいたり足の爪を切ったりする、脚を組む、座ったまま体をひねって後ろの物を取る、といった場面が当てはまります。前から入る手術(前方進入)では、気をつける向きが逆になり、脚を後ろに伸ばす、外へひねる動きに注意します。
手術のあとのリハビリは、歩く力、筋力、関節の動きの向上に役立つとされています。脱臼しやすい姿勢の例と、避けるための工夫は、足の付け根の骨折のあとのリハビリの、「手術の2つの方法と、その後の違い」にまとめています(骨折の手術の記事ですが、人工股関節の脱臼に気をつける姿勢の考え方は共通です)。
7. 家族ができる関わり
ご家族がいちばん力になれるのは、ご本人が「痛い」「手伝ってほしい」と言いやすい雰囲気をつくることです。痛みを我慢してしまうと、動く範囲がせまくなりやすいためです。「最近、股関節の調子はどう?」と声をかけたり、受診に付き添ったりすることは、ご本人の安心につながります。
運動は、ご家族が「やらせる」ものではありません。ご本人のペースで、続けやすい形を一緒に考えるのがおすすめです。気になることは、リハビリ専門職や医師に一緒に聞いてみるのも一つの方法です。痛みが強い日は、休んでもかまいません。
ご本人が、これからも続けたいこと(日課や趣味、家での役割)を聞いて、それを安全に続ける工夫を、専門職と一緒に相談するのもおすすめです。「長く歩かないで」「階段は使わないで」と禁止するのではなく、どうすれば負担を減らして続けられるかを考えます。
また、痛みの原因をご家族で診断すること、インターネットで調べた運動をご本人に勧めることは、しなくてよいことです。運動や体重のことは、医師やリハビリ専門職にお任せしてよい部分です。
よくある質問
股関節が痛いときは、何科に行けばよいですか
整形外科を受診するのがおすすめです。
脚の付け根の痛みは、変形性股関節症のほかにも、いくつかの病気で起こるとされています。どこに行くか迷うときは、かかりつけの医師に相談してもよいものです。
股関節が痛いときも、運動したほうがよいですか
痛いからと動かさないでいると、筋肉が衰えやすいとされています。運動は、短い期間や中くらいの期間では、痛みをやわらげ、動きを良くするのに役立つとされています。
ただし、運動は痛みを引き起こすことがあるので、慎重に始めて、少しずつ強めていくのがポイントとされています。痛みや疲労感を感じたら、すぐに中止します。動きが悪い方や痛みが強い方は、理学療法士や医師に相談するのがおすすめです。
筋トレのとき、力を入れる瞬間に息を止めてもよいですか
息をこらえないように、注意が必要とされています。息をこらえると、血圧が急に上がることがあるためです。
力を入れるときも、自然に呼吸を続けながら、ゆっくり行うのがおすすめです。
ストレッチは、痛くなるまで伸ばしたほうが効きますか
いいえ。痛みや辛さを感じる強さのストレッチは、逆効果とされています。
呼吸を止めずに、無理のない範囲でゆっくり行うのがおすすめです。痛みのない側も、同じようにストレッチします。
杖は、どちらの手に持てばよいですか
痛みがある股関節と反対の手で持つと有効とされています。
股関節の状態や痛む場所は人によって違うので、リハビリ専門職や医師の指導が最優先です。長さの合わせ方は、記事「杖の長さの合わせ方と選び方」にまとめています。
水中ウォーキングや水泳は、よいですか。平泳ぎもよいですか
プールでの水中歩行は、浮力で股関節への負担が軽くなるので、運動として有効とされています。水中歩行や水泳を、週に2〜3回行えると理想的とされています。
ただし、平泳ぎは、股関節を大きく開くので、避けるよう勧められています。水中での運動も、痛みが強い方や、手術を受けた方は、先に医師や理学療法士に相談するのがおすすめです。
体重は、減らしたほうがよいですか
体重が増えると、股関節の負担が大きくなるとされています。体重が気になる方は、増やさないようにすることが勧められています。
ただし、減らし方は人によって違います。体重のことは、医師や専門職に相談してみるのがおすすめです。
人工股関節の手術のあと、気をつける姿勢はありますか
手術の方法によって、脱臼しやすい姿勢が違います。日常生活では、脱臼しやすい姿勢や動作に気をつけることが勧められています。
内容は、受けた手術に合わせて決まるので、担当の医師や理学療法士の説明が最優先です。姿勢の例は、記事「足の付け根の骨折のあとのリハビリ」にまとめています。
出典・参考にした資料
- 日本整形外科学会「変形性股関節症」:症状(立ち上がりや歩きはじめの付け根の痛み、爪切りや靴下、和式トイレ、階段・乗り物の乗り降り)、日本では子どものころの病気の後遺症や形成不全が主な原因であること、診断(X線)、痛みを悪くしない使い方、杖の使用、水中歩行や水泳(平泳ぎを除く)、手術の種類。2026年10月確認 リンク
- 日本理学療法士協会「理学療法ハンドブック シリーズ17 変形性股関節症」(第1版、2023年3月1日現在):病気の説明、一次性と二次性、受診の目安となる症状、治療の流れ(保存療法・手術療法)、自宅でできるストレッチと筋トレ(回数・時間の目安、中止の基準)、生活の工夫(体重、杖、洋式の生活、歩き方、水中ウォーキング)、人工股関節置換術を受けた方へ。2026年10月確認 リンク
- 日本整形外科学会・日本股関節学会「変形性股関節症診療ガイドライン2016」(第2版。Mindsガイドラインライブラリでは旧版として公開され、2024年に改訂版が発行されています):運動療法が短期・中期的な痛みの緩和と機能の改善に有用で、長期的な進行予防は不明であること、杖などの歩行補助具が痛みの緩和に有用であること、杖を痛い側と反対(健側)に持つと中殿筋の活動が減ったという報告、鑑別が必要な疾患(大腿骨頭壊死症、関節リウマチ、化膿性股関節炎、大腿骨近位部骨折など)、人工股関節置換術後のリハビリの有用性と、術前の脱臼肢位の指導による脱臼の減少。2026年10月確認 リンク
- 滋賀県立総合病院「人工関節センター」:股関節を深く曲げる、曲げたうえで内側に寄せて内側へひねると後ろへ、後ろに伸ばす、伸ばしたうえで外へひねると前へ脱臼すること。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「ストレッチングの実際」(宮地元彦、2026年7月15日更新):ストレッチの5つの原則(20秒以上、伸ばす部位を意識、痛くなく気持ちよい程度、呼吸を止めない)、静的・動的・セルフ・パートナーの分類と、セルフの静的ストレッチが安全性の面から勧められること。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」情報シート「筋力トレーニングについて」(2024年2月22日更新):息をこらえないこと、少しずつ負荷を高めること、休息日、やりすぎへの注意、専門家への相談。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「レジスタンス運動」(2025年2月17日):息をこらえないこと、週2〜3回の頻度の目安。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「スロートレーニングとは」:ゆっくり動かす筋トレは、軽めの負荷でも効果が得られ、関節や筋肉への負担が小さいこと。2026年10月確認 リンク
この記事は一般的な内容です。診断や治療の代わりにはなりません。運動の内容や強さは、股関節の状態によって異なります。最新の情報や、ご本人の状態に合う方法は、医療機関やリハビリ専門職でご確認ください。