この記事は、脳卒中(脳梗塞・脳出血)で入院している親を持ち、これから家に迎えるご家族に向けて書きました。退院が決まると、安心と同時に、「家でどう過ごせばいいのか」「また起きたらどうしよう」という不安も出てきます。
退院してから数週間でよく出会う困りごと、家でできる再発の予防、そして救急車を呼ぶ目安をお伝えします。救急車を呼ぶときのメモは、印刷して冷蔵庫などに貼っておけます。
- 脳卒中のあとに残る症状は、手足の麻痺だけではありません。失語症や注意力の低下など、見えにくい障害もあります
- 回復の程度は人それぞれです。退院後も、歩く練習などを続けることがガイドラインで勧められています
- 退院して数週間は、ベッドで過ごす時間が増える、転ぶ、すぐ疲れる、デイサービスに行きたがらないといった困りごとがよくあります。早めに相談できます
- 再発の予防には、家で血圧を測って記録し、受診のときに見せること、薬を続けることが大切とされています
- 顔・腕・言葉の異常が突然出たら、症状がすぐに消えても、時刻を確かめて救急車を呼びます
- 車の運転を再開するかどうかは、主治医と相談して決めます
1. 残る症状は、人によって違います
脳卒中は、脳の血管の病気です。血管が詰まるのが脳梗塞、破れるのが脳出血・くも膜下出血です。脳卒中の約3分の2は脳梗塞とされています。
後遺症というと、片方の手足が動かしにくくなる麻痺を思い浮かべる方が多いと思います。ほかにも、言葉が出ない、人の話が理解しにくい(失語症)、注意力が落ちるといった、見ただけではわかりにくい障害(高次脳機能障害)が残ることがあります。
こうした変化を知っておくと、「やる気がなくなった」「怠けている」と受け取らずに済みます。生活のどの場面で困りやすいかは、病棟の医師・看護師・リハビリ専門職に、具体的な場面で聞いてみるのがおすすめです。
2. 退院後の回復と、リハビリの続け方
回復の程度は、人それぞれです
退院が近づくと、「このあと、どこまで動けるようになるのだろう」と気になるのは自然なことです。回復の程度は人それぞれで、脳のどこにどのくらいの変化があったか、年齢、もとの体力などによっても違います。気になることは、担当の医師やリハビリ専門職に気軽に聞いてみるのがおすすめです。「いまの時点で、どう見ているか」「退院後は何を目標にするか」などを聞いてみてください。
退院後も、リハビリを続けることが勧められています
脳卒中治療ガイドライン2021では、在宅で生活している方に、歩く機能や日常生活の動作を高めるために、歩く練習や、脚の筋力をつける訓練を行うことが勧められています(推奨度A。もっとも強く勧められる区分です)。日本脳卒中学会の資料でも、長い時間をかけて障害が改善する可能性もあるとされ、暮らしの中にリハビリテーションを取り入れることが勧められています。
退院後のリハビリには、病院に通う外来リハビリ、通って受けるデイケア、自宅に来てもらう訪問リハビリなどがあり、手続きも違います。発症からの時間、後遺症の種類、年齢、障害者手帳の有無で、使えるものが変わるため、退院前に病院で相談しておくと安心です。違いは「訪問リハビリと通所リハビリ(デイケア)の違い」に、外来リハビリの期限は「外来リハビリの期限を過ぎたらどうなる?」にあります。
3. 退院前に、病院で聞いておくこと
動作ごとに「一人でできるか、見守りか、手伝いが要るか」など、退院前に聞いておきたいことは「退院前カンファレンスで確認しておきたいこと」の確認リストにまとめています。脳卒中のあとで、とくに聞いておきたいのは次のことです。
- リハビリで教わった動き方:歩くときの体重ののせ方、装具(足などに着ける補助具)の着け方と、どの場面で着けるか
- 飲みこみ:食べやすい形や、とろみが要るか、食べるときの姿勢
- 見えにくい障害:会話で伝わりにくい場面、注意がそれやすい場面と、関わり方のこつ
- 介助のしかた:スタッフの介助を見せてもらい、立ち会いのもとで家族も一緒に練習します
介助の基本は、介助する人の力だけで引っぱり上げず、ご本人の力を引き出すことです。片麻痺の方に限らず、骨折や脚の痛みがある方でも同じです。手順は「寝返りと起き上がりの介助」「ベッドから車いすへの乗り移り」にあります。ご本人に合わせた指導を受けたときは、そちらを優先します。
ベッドを中心に過ごす方は、床ずれの予防、体の向きの変え方、おむつ交換、食事の介助を、退院前に教わっておくと安心です。家での介護に大きな不安があるときは、自宅だけにこだわらず、施設も選択肢に入れて相談できます(「退院先の介護施設の種類」)。
4. 退院して数週間で、よくあること
家に戻って数週間は、病院とは環境も生活のリズムも変わります。現場では、次のような相談をよく受けます。どれも、早めに担当のケアマネジャーやリハビリ専門職に伝えると、一緒に手を考えてもらえます。
ベッドで過ごす時間が増え、トイレと食事のときしか起きなくなった
病院ではリハビリの時間がありましたが、家では、することがないと横になる時間が増えがちです。食事のあと、すぐ横にならずに少し座って過ごす、洗濯物をたたむなどの役割をお願いする、好きなテレビや音楽をいすで楽しむなど、起きている理由を暮らしの中につくるのがおすすめです。くわしくは「親が出かけなくなった・横になる時間が増えたら」にあります。
転んでしまった
まずは、あわてて起こさず、けがや様子を確かめます(「親が家で転んだら」)。そのうえで、どこで、何をしていて、どう転んだかを、ケアマネジャーやリハビリ専門職に伝えると、手すりや家具の配置、動き方の見直しにつながります。転ばないように役割を取り上げるより、役割を安全に続ける工夫を考えるのがおすすめです(「家の中の転倒を防ぐ工夫」)。
思ったより体力がなく、すぐ疲れてしまう
入院中と比べて、家の中は移動の距離や動作が多く、疲れやすく感じることがあります。用事を一度にまとめず、間に休みをはさむ、疲れやすい時間帯を避けて入浴などを予定するといった工夫ができます。いつもと違う疲れ方が続くときは、主治医に相談します。突然、片方の手足に力が入らなくなったときは、疲れではなく脳卒中の症状のことがあります。6章の目安にあてはまれば、すぐに救急車を呼びます。
デイサービスに行きたがらない
「知らない人ばかり」「することが合わない」「疲れる」など、理由はさまざまです。無理に行かせるより、何がいやなのかを聞いてみるのがおすすめです。見学や体験をしてから決める、リハビリが中心のデイケアと比べてみるといった方法もあります。違いは「デイケアとデイサービス、どちらが合う?」で確かめられます。
手伝いすぎず、教わった動き方を続ける
転ぶのが心配で、ご本人ができる動作まで先に手伝ってしまうことがあります。けれど、すべてを代わりにすると、体を動かす機会が減ってしまいます。時間がかかっても、ご本人ができる動作は焦らず見守るのがおすすめです。うまくいかないときは、座る姿勢、足の裏が床についているか、いすやテーブルの高さなど、ご家族が手を打てる点から見直します。
どんな動き方がよいかは、体や心の状態によって一人ひとり違います。手伝いすぎず、教わった動き方を続けられるように、退院前に、担当のリハビリ専門職に「家ではどう動けばよいか」を聞いておくのがおすすめです。
5. 再発を防ぐために、家でできること
脳卒中は、退院後に再び起こることがあります。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、お酒の飲みすぎ、心房細動(不整脈のひとつ)をそのままにすると、脳卒中が起きやすくなるとされています。再発の予防は、かかりつけ医と一緒に取り組みます。ご家族が手伝えるのは、次のようなことです。
家で血圧を測って、記録する
- 少なくとも朝と夜の2回、落ち着いてから測ります
- 血圧手帳などに、数字を書いておきます
- 受診のときに、記録を医師に見せます
薬を、規則正しく続ける
処方された薬は、お薬手帳で中身と飲み方を確かめ、続けて飲むことが大切とされています。飲みにくい、飲み忘れた、なくしてしまったなど、困ったときは、自己判断で止めずに、医師か薬剤師に相談します。
脈の乱れや、息切れに気づいたら
心房細動は、心臓の中に血のかたまりをつくり、脳梗塞の原因になるとされています。「どきどきする」「胸が苦しい」「階段や坂がきつい」「息が切れやすい」「疲れやすい」といった様子や、脈の乱れに気づいたら、医師に相談します。
食事と生活の習慣
塩分を減らし、野菜や果物を増やすなど、バランスのよい食事を規則正しくとること、禁煙、お酒を控えめにすることが勧められています。運動の量や強さは、持病があるときは医師に相談して決めます。
6. すぐに救急車を呼ぶ目安と、印刷できるメモ
次のどれかが突然出たら、様子を見ずにすぐに救急車を呼んでください。症状が一時的によくなったり、消えたりしても、油断は禁物です。重い脳梗塞の前ぶれのことがあります。治療は、早く始めるほど効果があるとされています。
- 顔(Face):顔がゆがむ
- 腕(Arm):手に力が入らない
- 言葉(Speech):ろれつが回らない、言葉が出ない、人の言うことが理解できない
- 時間(Time):症状が出た時刻を確かめて、すぐ救急車を呼ぶ
- 片方の手足や、顔の半分のまひ・しびれ
- ろれつが回らない、言葉が出ない、人の言うことが理解できない
- 力はあるのに立てない・歩けない、ふらふらする
- 片方の目が見えない、ものが二つに見える、視野の半分が欠ける
- 経験したことのない激しい頭痛
救急隊に伝える「3つの時刻」
- 発症した時刻:ご本人に症状が出た時刻
- 発見した時刻:周りの人が気づいた時刻
- 最後に普段どおりだった時刻:眠っている間や一人でいる間に起きたときに、とくに大切です
救急車を呼ぶときのメモ(印刷用)
いざというときは、あわてて時刻や薬の名前が出てこないものです。下のメモを印刷して、名前や薬などを先に書き、冷蔵庫や電話のそばに貼っておくのがおすすめです。
顔がゆがむ / 腕に力が入らない / 言葉がおかしい
→ ひとつでも突然出たら、すぐ救急車。症状が消えても呼ぶ。
| 名前・生年月日 | |
|---|---|
| 住所 | |
| 脳卒中になった時期と病名 | |
| 飲んでいる薬 (お薬手帳も一緒に) | |
| かかりつけ医・電話 | |
| 家族の連絡先 |
| 症状が出た時刻 | 時 分 |
|---|---|
| 気づいた時刻 | 時 分 |
| 最後に普段どおりだった時刻 | 時 分 |
| どんな症状か |
7. 制度と相談先、車の運転
困ったときは、医療ソーシャルワーカーへ
脳卒中の患者会の会員を対象にした日本脳卒中協会のアンケート(2019年)では、退院後の生活を支える制度やサービスについて、必要な情報を十分得られたと感じた人は約半数でした。相談窓口がわからなかった人も2割いました(回答者の7割以上が失語症の方の会の会員で、かたよりがある可能性があるとされています)。
退院後の介護、医療費や生活費、仕事のことは、院内の医療相談室にいる医療ソーシャルワーカーに、退院前から相談できます。「退院後にどう暮らしたいか」「家族はどう思っているか」を、そのまま伝えてかまいません。
介護保険と、40〜64歳の特定疾病
65歳以上の方は、病気の種類を問わず、介護保険の要介護認定を申請できます。40歳以上65歳未満の方は、原因が特定疾病の場合に限られますが、脳血管疾患(脳出血・脳梗塞など)は特定疾病のひとつです。そのため、原因が脳卒中であれば要介護認定を申請できます。申請の流れは「介護保険の申請の流れ」にあります。サービスの自己負担は、原則1〜3割です。
障害福祉サービス
一定以上の麻痺、ろれつや飲みこみの障害、失語症などがある場合、申請して認められると、障害福祉サービスを使えることがあります。介護保険にないサービスも含まれます。使えるかどうかは、担当医や医療ソーシャルワーカーに相談できます。
車の運転を再開したいとき
脳卒中治療ガイドライン2021では、運転の再開を希望する場合、再開できるかどうかを慎重に判断することが勧められています。手足の動きだけでなく、見えにくい障害(注意力など)も運転に関わります。ご本人が「もう大丈夫」と感じていても、運転を再開する前に、主治医に相談するのがおすすめです。
よくある質問
退院後も、回復は続きますか?
回復の程度は人それぞれです。わからないことは、担当の医師やリハビリ専門職に気軽に聞いてみるのがおすすめです。
脳卒中治療ガイドライン2021では、在宅で生活する方にも、歩く練習や脚の筋力をつける訓練が勧められています(推奨度A)。日本脳卒中学会の資料でも、長い時間をかけて改善する可能性もあるとされ、暮らしの中にリハビリを取り入れることが勧められています。
症状がすぐに消えました。それでも救急車を呼びますか?
呼びます。顔・腕・言葉の異常などが突然出たときは、一時的によくなったり消えたりしても、油断は禁物とされています。重い脳梗塞の前ぶれのことがあります。症状が出た時刻、気づいた時刻、最後に普段どおりだった時刻を伝えます。
再発を防ぐために、家族は何ができますか?
家で血圧を朝と夜の2回、落ち着いてから測って記録し、受診のときに医師に見せること。薬を続けて飲めるように見守り、飲みにくい・飲み忘れたなど困ったときは、自己判断で止めずに医師か薬剤師に相談することが、日本脳卒中学会の資料で勧められています。
車の運転を、また始めてもよいですか?
脳卒中治療ガイドライン2021では、運転の再開を希望する場合、再開できるかどうかを慎重に判断することが勧められています。手足の動きだけでなく、注意力などの見えにくい障害も運転に関わるため、再開する前に主治医に相談するのがおすすめです。
40代・50代で脳卒中になりました。介護保険は使えますか?
脳血管疾患(脳出血・脳梗塞など)は、介護保険の特定疾病のひとつです。40歳以上65歳未満の方でも、原因が特定疾病であれば、要介護認定を申請できます。認定されてサービスを使うときの自己負担は、原則1〜3割です。申請は、病院の医療ソーシャルワーカーやお住まいの市区町村に相談できます。
退院のあと、誰に何を相談すればよいですか?
健康管理や再発予防は、かかりつけ医に相談します。介護やリハビリ、デイサービスのことは、担当のケアマネジャーに相談できます。医療費や生活費、仕事のことなどは、退院前なら病院の医療相談室にいる医療ソーシャルワーカーに相談できます。
出典・参考にした資料
- 日本脳卒中学会(協力:日本脳卒中協会)「脳卒中の予防・発症時の対応」:脳卒中の種類、危険因子、家庭での血圧測定と記録、薬の続け方、心房細動の症状、生活習慣、顔・腕・言葉の異常と救急車(ACT FAST)、5つの症状、3つの時刻。2026年10月確認 リンク
- 国立循環器病研究センター 病院「脳卒中」:一過性脳虚血発作、症状が一時的に改善しても油断は禁物であること。2026年10月確認 リンク
- 日本脳卒中学会「自宅に退院する準備と退院後の生活」:退院後のリハビリの続け方、見えにくい障害、暮らしの中のリハビリ、障害福祉サービス、医療ソーシャルワーカーへの相談。2026年10月確認 リンク
- 理学療法科学 37巻1号(2022)総説「脳卒中治療ガイドライン2021におけるリハビリテーション領域の動向」:生活期のリハビリテーションの推奨文(歩行訓練・下肢筋力増強訓練は推奨度A、自動車運転の再開の可否を慎重に判断すること)。2026年10月確認 リンク
- 日本脳卒中協会「脳卒中患者・家族は何に困り、何を求めているのか?」(2020年7月、患者・家族アンケートの報道発表):制度やサービスの情報を十分得られた人は半数、相談窓口が分からなかった人が2割、調査の限界。2026年10月確認 リンク
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」:脳血管疾患(脳出血・脳梗塞等)が特定疾病であること。2026年10月確認 リンク
制度の内容や費用は変わることがあります。最新の情報は、お住まいの市区町村や担当のケアマネジャー、各相談窓口で確認するのがおすすめです。動作の方法は、リハビリ専門職の指導があれば、そちらを優先します。